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災害備蓄庫

 筆頭、安藤に続いて五十嵐も戦死です。川崎が一番持ち堪えています、中道左派本部は、占拠は出来てますがこっちの関係者はほんとんど取り逃しています。」

状況はどちらと言えば悪いかも知れませんと、無線越しに山形が虚な声で言う。


こじ開けた災害備蓄庫への扉を超えたあたりで、和泉はその無線を聞いた。


同じマナがない人間だと思っていた旅団03小隊が一番敵意を向けている。予想外でもあり予想通りだった。


自分達は社会に恭順する、でも同じ穴のムジナがこんな事件を起こせば、まぁそうだな。

同じ穴のムジナなら仲良くできるかとも思ったが、同じ穴ので縄張り争いしてるだけのようなものかも知れん。


そう言う意味では残念だったな。


「旅団02小隊が、中道左派本部への突入した模様です」


突入を許せば、そう長くはもたんだろうな。和泉は現実的に考えてしまった。

最初からこうなる事はわかっていた筈だ、だから止まる事は許さない。


「我々も行くぞ」


振り払うように声掛け、災害備蓄庫の中に入っていく。


首相官邸から伸びる地下道は長く、どこで待ち伏せや罠があるかわからない状況だが、速度を緩めれば、その分だけ、士気が落ちる気がしている。


目的のものは目の前にある筈だが、どこか皆不安げである、この長いトンネルの中で少しずつ現実に引き戻されていく。自分達は仮にも一国の首相を手にかけた、そしてその目的はこの先にあるはずだ、その先も決まっている、壊すか、衆人環視の元に晒すか。決まっているが見てから決めるとしたことが逆に変な選択の余地を団員達に与えてしまったかもしれない。


壊す?見せる?どちらにせよ、どうやって?


…もし、無かったら? どうする?


不安が重なるたびに足取りは早くなる、答えを求めて、走る。


地下道の傾斜が緩くなる。


薄いぐらい。


しかしその先に大きな空間が見える。


あそこだろう。


走る、各々が取り憑かれたように。


ここで死ぬ、そう決めて、その死に様がなんなのか確かめるために。


走る距離は厳しい訓練の千分の一にも満たない、短い距離。


息が上がる、足取りは重い、装備が重い。


触れるもの全てが自分への強烈な違和感を発している。


辿り着く。


辺りを見回す、様々な資材が山と積まれている。


そしてその中央に兵士が一人。


赤茶色の髪、旅団の制服、部隊証は04小隊のそれ。

小隊長の彼女はただ一言、それを告げるだけだった。


「ここには何もない。」


和泉の意識はここで途切れた。


-----


「だからぁ!対人戦闘はウチらじゃないって!なんで民家に突入するハメになってるのよ」

ねぇ!と大きな愚痴と共にヴィルを見る千里。


言われたヴィルはどこ吹く風で、ライフルとショットガンを装備している。

「千里は良いよ、邪魔」

ぶっきらぼうに言うが嫌味もない、彼女の物言いはこんなもの。

自分は戦力外と、明確に言われるとただちょっと寂しいかな。

この少し前にレイはこちらには来ないでどこかに行ってしまった。


今は古ぼけた食堂を我々と憲兵隊で囲んでいる。

憲兵隊の合図で扉や窓が壊され、中を制圧していく。閃光弾の音と光が聞こえるが銃声は聞こえない。順次、確保!の声が聞こえてくる。


「千里、来て良いよ」

完全制圧前だが、無線越しにヴィルが言う。


千里が踏み入れた敵アジトの最深部、そこには、手と足に仮の止血包帯を巻き、自身のこめかみを打ち抜いて絶命している将校が一人いただけだった。確か名前は山形だったか。


生前に彼が見ていたモニターの先では、いまだに教育省での抵抗が中継されている。

画面の中では、首謀者とされる女性幹部が最後の抵抗を試みている。

彼女が伝えたい、この世の真実とされる者は、千里にとってはただ荒唐無稽なものにしか聞こえなかった。千里はため息混じりに言う。

「マナと生命は切り離せない、まぁそうだけどさ、だからって人が死ぬ必要はないじゃない。」


ヴィルは山形の亡骸を見つめ、ただポツリと呟く。

「あなたは、逃げちゃたんだね」


全室確保!憲兵の大きな声が響く。ここでの戦いは終わった、ただここでは誰も戦ってはいなかった。


朝から続いた霧雨は止んだようだ。空には虹がかかっている。

誰も愛でることができない、綺麗なはっきりとした虹だった。


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