首相官邸
「教育省が襲撃されたそうです、こちらも武装警務が警護に来ます。」
首相官邸で、老いた首相は、先程、教育省襲撃の報告を秘書官から聞いたところだ。
首相の周りには中道左派の幹部や中堅が控えている。
秘書官を退室させ、幹部が言う。
「これで、マナ無しは野蛮な奴らだと、堂々と処分出来る。何もなければ真綿で首を絞めるが如く、静かに処分。今回のように暴発すれば、奴らはただの反政府勢力、社会の敵ということだ。その仕上げのために、あなたはここで死ななければならない。あなたの死が非業であればあるほどその火は燃える。」
一息。首相は顔顰める。
「なんで、ワシがこんな目に遭わないといけないんだ。」
机で震える一国の首相、側から見れば虐められている爺さんだ。
「それは首相になると言う事だけを目的に生きて来たからでしょう?首相として死ねるのです、本望じゃないでしょうかぁ」
そう言って中道左派の幹部達は退室する。
警護の武装警察一部は中道左派本部に回しますので、と去り際に言う。
「災害備蓄庫にあるアレはどうするんだ!?ここが入り口だぞ!?」
声を震わせ叫ぶ。
「対策済みです、もう無いですよ、そんなものは。」
乱暴に扉が閉められる。ぽつねんと一人残される。
なんの覚悟もなく、ただ死を告げる来訪者を待つだけとなった。
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「首相になったは良いものの、アレは渡れた原稿を読んだだけだっただぁ?そんな訳あるかこの野郎!」
和泉隊の下士官が首相を怒鳴りつける、萎んでしまった老人はごちゃごちゃと見苦しい言い訳を並べている。
ぼんやりした奴だがいわゆる失点はしないタイプだ、長く組織にいて、周りが自滅するか卒業するかをじっと耐えていた。そう言うタイプだ。
この後に及んでこうならば、自分でも何が本心か、偽りかわからずにその場を取り繕うことに全精力を注いで生きている人間だ。
並大抵の言葉では通じない。こちらがいかに本心で話しても、ただ煙に巻かれ疲弊する。こちらが手を出す気も失せるそのチャンスを狙っている。
なまじこちらの下士官は少し前に安藤戦死の方に触れ気が立っている。
しかし、人の程度や格、そう言ったものが明らかに自分より劣っている人間に対して自分達が手を下し、悪人になる意義を見出せない。
完全に術中にはまっているな、と和泉は感じる。他の兵に、災害備蓄庫への扉を破壊させているが、頑丈で手間取っている。その間にこいつから何か聞き出せないかと問答する。
開かない扉、蹴散らした後の反撃が来ない敵、そして人として終わっている首相。
状況を打開する手段は一つだけ。和泉は静かに銃を取り出した。
仮にコイツを撃ったとしても何も吐かない、自分でも何が本心か、偽りかわからずにその場を取り繕う事しかしない、以前の山形よりももっと惨めにのたうち回るだけで、我々の溜飲が下がるわけがない。
「残念だったな。我々に後があれば、その先の事を考えるんだがな。」
首相のごちゃごちゃに被せるように独り言を吐く。
我々の本気を、小さな事件では終わらせない。
こんなチンケなやつの命で一段上がるなら安いものだ。
和泉は黙って下士官を押し除け、まるで握手をするような自然な腕の運びで、首相の前に銃を突き出す。当の首相は目を瞑り相変わらずごちゃごちゃ言っている。
気づかないかもしれんな。
一撃で胸を撃つ。首相は目を開いて絶命する。
「下がらない溜飲は他で下げろ、俺たちにはまだやることがる。」
和泉は踵を返し、告げる。
「ボサボサするな、敵が来るかも知れんぞ、陣地構築をもっとしっかりしろ」
下士官の大きな返事がこだまする。




