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安藤と川崎の本気

 「ご気分はどうですか?、陽動ですよ、我々は」

 朝日の気配を雲に向こうに微かに感じる霧雨のなか、揺れる兵員輸送用トラック群。その先頭車両の運転席で安藤がいう。字面だけ見ると皮肉しか聞こえないが、酷く高揚しているのは明らかだ。

 助手席に座る川崎は安藤のその新鮮な反応に懐かしさを覚えていた。

 「歩兵隊なんてそんなものです、いちいち気するわけないじゃないですか」

 窓ガラスについた水滴を眺めながら、頬杖をついた川崎が答える。戦場ではいつも泥臭く、汗と血に塗れなながら進む、それが歩兵の本領。陽動だろうがなんだろうが、やるべきことをやるだけだ。高揚感なんてものはとうの昔に置いて来た。

 いつも通りの物言いで返すが、安藤は意にも介さない。ミラーで後続がついて来ているか確認しながらトラックを進める。

 「輜重隊が長いと、戦場はずいぶん久し振りなもので、すいませんねぇ」

 ハンドルを切る、安藤の高揚感を感じさせるように遠心力を感じながらトラックは曲る。

 川崎は理解した。そうか、あなたにとっては久しぶりの戦場だからか、最初から頭でわかっていたことを体でも確認する。

 「その久しぶりがこれって言うのはどうなんです?その、最期、じゃない?」

頬杖を止め、安藤の方に向き直り問う。

 「やるなら本気ですよ、それだけです。」

 ちらっと川崎に目を向けた後、先ほどから続く高揚した声で返し、安藤は改めてアクセルを踏み込む。 


 そう、今回我々に与えれた任務は陽動。川崎は胸の中で確認する。

 一つ目の目標が先日、マナの有無によって学制を分けると言う「暴挙」に出た、教育省に「問い合わせ」をすること。

 教育省大臣の省庁入り早く、日の出と共に政策に大臣レクが行われているそうだ。朔望団として、マナを持たない人を代表して「問い合わせ」を行う予定である。

 その主担当は自分が率いる歩兵隊で行う。安藤は別の「問い合わせ」先に向かうことになる。

 それは、安藤が先日袖にされた、中道左派の本部である。代議員会を通さない教育省の学制変更決定、首相のマナの代償は生命そのもの発言について、会派の見解を「問い合わせ」させてもらう必要がある。

 命懸けの「問い合わせ」は長くなるだろうから、出来る限り派手に交渉術を見せることで、この街に戒厳令を発令させ、出来る限りの治安維持隊や旅団を引っ張り出すことを目的にする。

 立てこもり事件までに発展し、強硬に抵抗するれば、本来は、対ヒトガタだが市街戦に特化した旅団にも出撃命令がかかるだろう。朔望団に味方する憲兵も多く、戒厳司令部から「意図を汲んだ指令」は出る可能性は高い、その辺は筆頭が工作すると言っていた。

 そこまで出来れば、朔望団の本命、「真実の暴露」は成功の可能性が高まる。

 本命の一つ目、実験ログの回収。

 旅団本部にあるとされる実験ログの回収だ。その実験ログには、「マナと生命の切り離し」の真実が記載されている、そしての真実のためのに犠牲になった人間のことも記されているはずだ。

 もし、それが回収が出来れば、それを対外的に喧伝することが出来る。その喧伝は朔望団のアジトにいる山形の贖罪である。彼のコネクション、彼が煽る宣伝文句、それは世に出れば大きなうねりとなるだろう。

 問題は、総括班が旅団本部に控えると言う事実、我々歩兵隊でも出来るが、やはり五十嵐の装甲車の機動力で打開するのが、一番可能性を感じる。失敗してもそこに何かがあったと言うアピールになる。

 そして、もう一つの本命、首相官邸から続く地下道から、災害備蓄庫にあるとされるマナ抽出機、人の命をまるで果実からジュースを絞り取るが如く生命を喰らう、この世の地獄のような機械。筆頭がこれを担当する。適任でしかない。確保して白日の元に晒すのが最善だが、災害備蓄庫から搬出できるかわからない。だから、回収できなければ破壊する。これ以上、マナ抽出機の犠牲者を出すわけにはいかない。

 マナがあればなんでも出来る、でもそのマナのほとんどは、マナ無しと謗られる側の人の生命だったと言う、この世に残酷な真実を露わにさせる。それが作戦目標。


 揺れる車内で、川崎は考える。正直言って勝算の少ない叛乱、なんなら体制をひっくり返すほどの「反乱」ではない。どこまで立てこもりがうまくいくか、関係ない人々に犠牲は出る、当然味方も。成功したとしても、どこまで行けるかわからない、正直なところ、和泉自身も成功した先のビジョンは持っている様には見えなかった。しかし、川崎は思う。


 やるなら本気だ、この本気がどこまで届くか知らないが、届けば何かが起こるかもしれない。見せてやるんだ、本気というやつを。


 予定通りの時刻に、大臣を乗せた公用車が地下駐車場に入ったそうだ。下士官からの報告を受け、安藤は思う。なんだ意外にも共感者は多いのだな。


トラックを止め、川崎率いる歩兵隊を下ろす、助手席から降りる川崎に向けて、いつもの口調でいう。

「では、ご武運を」

 安藤はニヤつきながら、軍人になったからには言ってみたかった台詞を吐く。

それを受けた川崎は少し穏やかな顔になり応える。

「そちらこそ、ご武運を」


川崎の前には14階建ての教育省のビルが聳えていた。


——


午前5時12分

川崎隊が教育省地下駐車場から侵入。非常階段とエレベーターを使い11階大臣室を占拠。

秘書官と大臣レクチャー中の初等教育局長初めて数人の官僚と含めて拘束。


午前5時15分

10階と12階の各部局を占拠。

9階以下の官僚は避難開始。

13階、14階の官僚は霧雨降る屋外に屋上へ追い出し鮨詰めに。


午前5時17分

警察、通報受電、警察官派遣


午前5時28分

教育省エントランス、避難者と駆けつけた警察官に向け川崎隊が発砲、警察官負傷。


午前5時30分

大臣室から動画配信開始。

川崎の演説と占拠の主旨を放送。


午前5時32分

憲兵隊及び武装警察官を教育省へ派遣決定。


午前5時47分

先着した武装警察、川崎隊と教育省エントランスで銃撃戦。


午前6時10分

憲兵隊到着、武装警察と交代、エントランスで銃撃戦。(午前8時まで


午前6時40分

安藤隊、中道左派本部強襲。


午前6時45分

和泉隊、首相官邸襲撃。


同刻

首相安否不明のため、副総理名で戒厳令発令。

憲兵隊本部に戒厳司令部発足。

治安維持のため全軍及び旅団各隊に出撃待機命令。

 

午前6時50分

警備の警察官と銃撃戦により安藤戦死。

指揮は下士官が引継ぎ、中道左派本部占拠。(午前7時


午前6時55分

旅団01小隊は教育省へ、旅団02小隊は中道左派本部へ、出撃命令。


午前7時

旅団03小隊、首相官邸へ出撃命令。


午前7時20分

旅団03小隊、首相官邸へ到着。

和泉隊と銃撃戦へ。


同刻

五十嵐隊、旅団本部へ突入。


午前7時40分

首相官邸へ応援到着。

旅団03小隊の一部、旅団本部救助命令。


午前8時

五十嵐戦死


同刻

旅団03小隊、旅団本部へ到着。


午前8時03分

憲兵隊、教育省エントランス突入断念。

旅団01小隊と交代。膠着状態。


午前8時10分

旅団本部救援完了

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