表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

やるなら本気だ!!!このボケ畜生が!!!

 「そうか、、、わかった、君も気をつけてな」

 連絡をくれた憲兵にお礼を言う。


 すでに会議室にいる五十嵐に遅れて、山形が入ってくる。軍本部所属、いわゆる参謀だ。身なりは整っているがどうも線が細いし、声に覇気がない、話す言葉も大体尻すぼみになる。エッジの効いた銀縁のメガネが彼なりの小さな強がりなんだろう。

 今日はいつもにましてよそよそしいなぁ、ほんとにさ、いる部署的にはお前がしないといけなかっただろうよ、と和泉は言いたくなる。だから補給隊の安藤に幹部一番格を取られているわけだよ。

 続けて入って来たのは川崎だ。眉が隠れるか隠れないかで切り揃えた前髪、キツめアイシャドウ、軍人らしからぬ顔立ち、上には媚びつつ原則と正論だけ、下には厳しい指導、原隊である歩兵隊では上からの評価は良いらしいが気に入らないと大声を出したりするので、正直気に食わないというか、扱いに困る。しかし、彼女を買っている人間は多い。

数は力ということで見逃している。幸い彼女の地雷もわかって来たので最近は以前ほどの苦手意識はない。

 幹部では安藤が最後に入り、続けて下士官も入ってくる。大会議室中央のテーブル。中央に和泉が座りその両隣に山形と五十嵐、対面に安藤と川崎というのが定位置。

 下士官たちは空いた席に原隊ごとに座る。自ずと幹部に近い兵科で固まっている。

「来れる連中は揃いました。」

 人を集めた五十嵐が報告し、和泉が受け頷く。集まった皆を改めて見る。皆、和泉の言葉を待っている。

 もう少し早くこれくらいちゃんと聞いてくる姿勢を出してくれたら良かったになぁと言葉にせず思いを巡らす。


 成功すれば革命、失敗すれば事件、それより大掛かりであれば乱と評される。今の朔望団は、やれたとしても小さな事件を起こす程度の集団に成り下がっていた。

 だからせめて、これから起こす事件をよりまともにする事だけを考えよう、この決意が届くかどうかは別にして。


 「皆、来てくれてありがとう。来てもらったのは他でもない、今日の代議員会での首相演説だ。聞けなかった者はいるか?」

 反応はない、聞けなかったとは言い難い雰囲気。軍務のタイミングで聞けない者もいるだろう。それを織り込んで、説明を始める。

 「今後社会の要請として、マナがない人々に対し応分負担を求めていく段階だ、そうだ」

 幾人かの顔が強張るのがわかる。和泉は続ける。

 「その応分負担は、各人の生命そのものである。と、一国の首相が言ったそうだ。」

 信じられないと言う顔をする者がいる。和泉は続ける。

 「マナと生命に切り離しすらまともに理解しない、耄碌と表現して良い発言ではある。」

 一呼吸おく、五十嵐は怒りに震えている、安藤川崎は済ましている。山形は顔面蒼白だ。気づいたか?

 「ただの失言かもしれないが、ここで一つ君たちに謝らないといけないことがある、ナガイの実験についてである。」

 なぜ今その話を?ほぼ全員の顔に疑問符が浮かぶ。

 「実は、実験自体は、承知していたのだ。」

 反応したのは川崎だった。

 「なんで黙っていたんですか!同胞が犠牲になっているんですよ!!おかしくないですか!」

 予想通りだから、まぁ良いが相変わらず圧が強い。

 「私が得た情報だと、うまくいくとマナを発現するらしい、参加する人間は旅団03小隊員のみでそれ以外ない、しかも志願制である。と」

 マジかよ、イカれてる、そんなことが、下士官たちが小言で話している。

 「だから、関与しないこととした」

 激昂した風を装う川崎が続ける、こいつの本質は他人の目線だ、椅子から立って続ける

 「それとこれは!何が関係あるのですか!!」

 構わず続ける。売り言葉に買い言葉ではこいつの思う壺だ。

 「むしろ関係ないとでも?」

 こちらは軽い調子で構わない、川崎が叫ぶ前に手をあげて制する。

 「我々は行動派と呼ばれている、それは何故だろう、諸君たちには改めて聞く話ではないだろうがね。」

 川崎に目配せする、たじろく川崎が言う。

 「マナがなくても生きていける社会の確立です。マナに頼らないために、できることをします、どれだけ屍を積もうとも、我々が流した血と汗が、欠けた月を満たすまで、それが朔望団です。」

 よく言った、と頷く。続けようとする川崎を改めて手で制し和泉が言う。

 「その通りだ、だから首相の言う応分負担の生命はすでに差し出しているような状況だ。しかし、社会が変わることもなく、我々はマナ無しとして生かされている。人々の思想に訴えることも必要じゃないかと、必死にその活動している者たちが今ここの幹部たちだ。」

 活動家の間違いじゃないか、と下士官の1人が言う。その者を睨みつける川崎、しかしすぐに座るよう安藤が促す、しぶしぶ座る川崎。和泉は両手を広げて言う。煽ると言うより諦めの意味合い。

 「意味がなかったとは言わないが、原理的な活動と、あえてそう言うが政治的な活動を持ってしても、今日、あのような発言があった。これは何を意味するか。」

 一拍の間、これから和泉が何を言うのか、気づいた者もいるようだ、血の気が引いている者、顔が紅潮する者、震える者、それぞれいる。気づかないものは固唾を飲んで和泉の言葉を待つ。

 「我々が少数派、厳しい言葉で言えば弾圧される側になってしまったと言うことだ。」

 あり得ない!我々は人口の4割です!無視できるはずはありません!下士官の1人が声を出す。そうだ、そうなんだが、そうじゃないんだ。同情に近い目線をその彼に向ける。

 「外見上はそうなんだ、でも、そうじゃないとすれば?恭順派は、生命すら差し出しても構わないと言うならば?4割のうちの半分のさらに過激派と言われそうな我々だけなら?一体何割なんだろうな。少数民族がどうなって行ったか、歴史に教科書にも書いてあるよな。」

 一同はそれぞれが抱く少数民族の悲惨な最後をイメージした。だが、しかし、まだわからない、自分たちが何故集められ、これから何をするのか。

 「筆頭、ずいぶんと勿体振っているようにお見受けしますが、我々が何故集められ、これから何をするのか。」

 その口火を切ったのは安藤だった。そう言うことが言えるから君は一番格なんだな、と皆納得する。

 そうだな少し勿体振ったな、と和泉が応じる。

 「実験ログ」

 全員が緊張する、ナガイの葬式の前で各種の騒動を起こす原因となったが実態のないモノ。

 「一人、とても優秀な憲兵がいてな、その彼が命懸けで調べてくれたんだ。」

 和泉はホログラムを投影する。

 「実験ログ、そこにはマナと生命に切り離しについての記載もあるそうだ、実はマナはやはり生体エネルギーであり、減った分心身的にダメージがあるらしい、しかしそのエネルギーを補充できるなら?」

 あえて聞く、しかし答えはない。

 「そう、我々の生命を代償にマナを抽出し、補充されている。どうやら、今はだいぶ「ストック」があるから、マナありから回収するマナは少なくて良いらしい。」

 少し他人ごとのように和泉は続ける。

 「興味深い記述があるらしく、いわゆる、マナ無し、この人々はマナは無いではなく、マナを外に出すことが出来ないだけの人。らしい、だから機械で絞りとる、取ったカスがうまくいけばあの植物系ミュータントになるそうだ。」

 妄言、オカルトと評しても良い事実の数々。しかしこの和泉から出る圧で、冗談を言っているようには思えない。そして思い出したように和泉は隣に視線を向けて言う。


 

 「なぁ、そうらしいじゃ無いか、山形」



 一同の視線がその男に集中する、山形が明らかに震えている。

 「なななな、なにをっ、そ、そんな、さ、参謀課内でも、あ、そ、っそそのような話は」

 震える左手を右手で押さえて山形が消え入りそうな声で言う。



 「吐いたんだよ、件の彼が、実験ログの存在をお前から聞いたんだ。」



 件の彼、実験ログを喧伝していた彼だ。

 和泉は立ち上がり言う。


 「なぁ、実験ログはどこにあるんだろうな、山形さんよぉ」


 山形は目も合わさず震えている。和泉は山形の髪を掴み机に叩きつける。

 骨がぶつかる鈍い音、メガネが机に当たる乾いた音が響く。


 「何黙ってるんだ!あるんだろう!旅団本部に!」


 山形は言い返す。いままで聞いたことがないくらい大きな声でだ。


 「そうですよ!そこですよ!でも!どうするですか!?誰も信じないですよ!無駄なんですよ!僕たちが昔からやってることは!自分たちが社会に貢献した様に見せかけたって!マナで何とかなるんです!だから!自己満足しかないだよ!和泉さん!被差別者が自活しようなんて烏滸がましいんだ!それを軍本部の連中は平気で言ってる!恭順派みたく「大人しく飼われてろ」って!僕らだって黙って搾りかすになって死ぬんだ!社会がそれを求めてる!でも!どうしろって言うんだ!」


 彼だけが先に真実に辿り着いた。でも、その真実は自分の許容量を超え、山形を襲った、そして彼は立ちすくんでしまったのだ。立ちすくんでしまったことで、もう事態は止まらない。


 彼の叫びを黙って聞いていた和泉は腰のホルスターから銃を抜き、山形の右手の甲に銃口を当ててためらいもなく引き金を引く、絶叫する山形、情けない男だ。

 「次はどこだ?どこがいい?あぁ?お前は嘘をつかないからなぁ!」

見苦しく騒ぐ山形を見かねて五十嵐が銃を抜く。おそらく息の根を止める気だ。

 「やめろ!下がれ!俺が、やるんだ。」

そう言って今度は左足の甲を撃ち抜く。2回目の絶叫。

 うるさいなぁ、仮にも軍人だろぉ、おい。

銃をしまい、髪を掴む、涙、鼻水、涎、全てをだらしなく垂れ流す山形に言う。

 「お前は殺さない、これから起こることの証人になるんだ。」

 山形を投げ捨て、縛っておけとだけ、つぶやく、素早く下士官が動き止血と拘束を行う。山形はおとなしく椅子に縛られていく。


 「い、和泉さん、色々わかったこともありますし、ここは真偽を確かめるべきです。」

空気を読まず正しい事を言う川崎、しかし、和泉は黙って山形に近づき、右拳で山形を殴る。鈍い音と共に白い歯が飛ぶ。

 「なぁ、お前はもう嘘をつかないよな、その生命を搾り取り取る機械はどこにあるんだ。」

 小さいがしっかりと聞こえる、圧のある声。

 「軍本部地下の災害備蓄庫の下です、入口は首相官邸にしかありません。」

 机に叩きつけられ頬は腫れ、歯が欠け、はっきりとは聞き取れなかったが、確かに山形はそう言った。


 そして和泉は川崎の方に向かい、叫ぶ。


 「やるなら本気だ!!!このボケ畜生が!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ