8.図書祭りで魔王を啓蒙するぜ!!
「真央様、来月の『図書祭り』、どうします??」
真央達の通う高校では、毎年6月に『図書祭り』と言うイベントを行っている。いわゆる生徒への読書啓発を推進するものだが、正直面倒なイベントで毎年適当な本を紹介して終わっている。
真央が人差し指を口に当て、シュンと空を切り答える。
「無論、我らがヴァァイヴル『魔王様の憂鬱』を紹介すべし。下々の者にあの聖なる本の存在を広め、我ら魔王を畏怖し、崇高するよう啓発しなければならない!!」
もはやどこかの怪しい宗教団体のような信念。だが下部Aの結はすぐにそれに賛同する。
「了でーす、真央様!!」
結局、図書委員の先輩らもキャラの濃い真央の提案に乗りそれを認める。彼らにしてみれば面倒なイベントをやってくれるのだから渡りに船だ。先輩が言う。
「じゃあ、お前らに任せるよ。頼んだぞ」
そう言って真央と結に図書祭りを一任する先輩。結が敬礼のポーズを取ってそれに答える。
「はい、頼まれました!!」
こうして真央と結の初めての共同作業が開始される。
「凄いね~、ちゃんと予算が出るんだ」
放課後、図書室にやって来た真央と結は、図書祭りに関する書類を見ながら話をしていた。多くはないが学校より資金が出る。歴とした読書啓発の行事である。真央が言う。
「この金で『魔王様の憂鬱』を買えるだけ買って並べよう。それがいい」
安易に考える真央に結が言う。
「真央様、それじゃあダメだよ。ちゃんとこの本のどこがいいとか、何が面白いとか。あと、他の本も紹介しないと企画が通らないよ」
「そ、そう言うものなのか……?」
ただ単に好きな本を紹介すればいいと考えていた真央。元々頭の良い結が客観的に計画を立てていく。
「でもやっぱり『魔王様の憂鬱』は数セット買いましょう。多くの人に読んで欲しいですしね」
「うむ。苦しゅうない」
「あとは登場人物の等身大のイラストを用意しましょう。ネットで探せば駆け出しのイラストレーターなら結構安く描いてくれますよ」
「そ、そうだな。良きにせよ」
「その他、私達もこの本の素晴らしさを皆に知って貰うようにポイントをまとめたボードを用意して説明します。やはり人の話だときちんと聞いてくれますしね」
「け、結構なことだ」
もうただただ返事するしかできない真央。結の有能さを初めて知る。
「最後はこれです!!」
そう言って結は資料の一番下に描かれた文字を真央に見せつける。
「コス、プレ?」
そこには魔王のコスをして啓発活動をすると書かれている。結が鼻息荒く説明する。
「そうです!! 真央様が魔王、私が小悪魔ちゃんのコスをして来てくれた人に説明するんです!! 目で楽しませ、言葉で楽しませ、そして小説で楽しませる!! 最高ですよね!!」
「え? 俺が魔王コス!?」
意外な話にきょとんとする真央。そんなことしたことないし、上手く話しができるか分からない。結が言う。
「心配することないです!! 真央様にはいつも通り魔王になって貰って、下々の者達に説法をしてくれればいいんですよ!!」
そう聞いた真央の表情がパッと明るくなる。立ち上がって言う。
「そうか、そうかそうか!! 『図書祭り』とは名を変えた『魔王崇拝イベント』のこと!! 我がいつも通り唯一無二の最強魔王を知らせれば良いのだな!!」
「はい、その通りですよ!!」
両手の二本指を空に掲げ、天を仰いで真央が言う。
「がーはははははっ!! 良いぞ、良いぞ!! 我こそは最強にて最高の唯一無二の存在『西京真央』!! 我の素晴らしさを皆にしっかりと伝えてやろうぞよ!!」
「はいです、真央様っ」
もう何も怯えることはない。彼となら自分の好きをすべて出して生きていけると結は思った。