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教室の魔王様  作者: サイトウ純蒼
1.前章
5/7

5.久しぶりの再会

 突然の結の告白。驚き声も出ない真央に結が言う。


「真央様に彼女がいることは知っているよ。でもいいんだ。私が真央様のことを想っていることを知って欲しいだけ」


「藤原……」


 決して諦めじゃない。何か強い気持ちが結に溢れている。


「何かをしなきゃ何も変わらない。ね、だから私は一歩を踏み出しただけ。それだけだから気にしないで」


 それだけ。でもとても勇気がいる大きな一歩。真央は中3のクリスマスに鈴夏に告白した時を思い出す。あの時はお互いそう言う雰囲気になっていたから気が楽だった。でも今は違う。叶わない想いをぶつけなければならない。



「わ、我こそは最強最高の……」


 そう言いかけた真央の言葉を遮るように結が立ち上がりポーズを取って言う。


「我こそは最強最高で、唯一無二の孤高の存在『西京真央』が下部A。これくらいのことでは諦めはせぬぞ!!」



(藤原……)


 完全に設定を持って行かれた真央。すぐに同じくポーズを取ってそれに応える。


「甘いぞ、下部A!! この腕はもっとこう上に鋭く上げる!! 指先まで神経を集中。ピンと伸ばす!!」


「はい! 魔王様っ!!」


 結が真央と同じポーズを取って頷く。



「ぷっ」


「ぷっ、ははははあっ!!」


 思わず笑いだすふたり。くだらない厨二ごっこ。でも楽しかった。だから真央自身、こんな時間がずっと続けばいいなどと言う思いを持っていることに、この時は気付くことができなかった。






 GW後半。待ちに待った鈴夏へ会いに行く日を迎えた。数ヶ月ぶりの再会。嬉しさのあまりほとんど昨晩は眠れなかった真央。あれだけ中学の時は毎日一緒にいた彼女に会うだけなのに、心の底から緊張する。


「真央、夏服用意しておいたからね。ちゃんと確認しておいてよ!」


 家を出ようとする真央に母親が声を掛ける。連休が終われば衣替え。まだ朝晩はひんやりするが夏服の季節だ。


「ありがと! じゃあ出掛けて来る」


 真央はそう母親に言い残すと足早に家を出た。





(鈴夏、元気でやってるかな)


 ひとり電車に揺られ車窓の景色を眺める。来たことのない場所。地元よりもずっと都会の風景に自然と身構えてしまう。


(ええっと、約束のファミレスはここだな……)


 鈴夏は祖母の家で暮らしている。真央は気にしなかったのだが鈴夏が『外で会いたい』と言うので駅前にあるファミレスで会う事にした。時計を見る真央。約束の時間より随分早い。



「ま、いっか。先に入ってよう」


 コーヒーでも飲みながら鈴夏を待てばいい。そう深く考えもせずにファミレスのドアを開ける。


「いらっしゃいませ。おひとりですか?」


 入店した真央にファミレスの店員が尋ねる。


「あ、ちょっと待ち合わせで……」


 そう答えた真央の目に、艶やかな黒髪の美しい見覚えのある女の子が、見知らぬ()と一緒に座っている姿が映る。



「鈴夏……」


 渡瀬鈴夏。間違えるはずがない。離れ離れになってからもずっと会いたかった大切な彼女。真央の姿に気付いた鈴夏がやや驚きながら言う。


「真央、随分早いじゃん……」


 それはまるで早く来てはいけなかったと問うような口調。喉が渇く。全身の血が逆流するかのような感覚を覚えながら真央が尋ねる。



「誰、その人……?」


 ようやく絞り出した言葉。鈴夏が何事もなかったかのように普通に答える。


「ああ、高橋先輩。前に話したでしょ? テニス部の先輩でよく勉強を見てもらってるって」


 聞いたことがない。いや、聞いていたかも知れないが、鈴夏の口から他の男の名前が出ることを認めたくなかった。高橋が立ち上がって手を差し出して言う。


「初めまして。俺、高橋。よろしくね」


「あ、はい……」


 笑いたくなるほど爽やかな先輩。短髪に焼けた肌。スポーツマンでありながら知的な顔立ち。キリッとした目で一体何人の女を口説いてきたのか分からないイケメン。鈴夏が苦笑して言う。



「ごめんね、真央。本当に勉強が忙しくて。今日も少しだけ先輩に教えて貰っていたらつい時間を忘れて……」


 その言い方はすでに何度も教えて貰っている言い方。自分の知らない鈴夏。見たことのない鈴夏。呆然とする真央をよそに、ふたりが勉強を続ける。


「やだ〜、先輩ってば。そんなの全然ですよ〜」


「そうなのかな? ちょっと信じられないよ」



(どうして? どうして、俺以外の男と仲良く話す? 誰なんだよ、こいつ……)


 イケメンでスポーツマンの先輩。片や厨二病全開のオタク。美少女の鈴夏。どう見たって向こうがカップルに見えるだろう。



()()、じゃあ俺、行くね。邪魔して悪かったね。彼氏君」


『ごめんね』と言いながらしばらく勉強を続けたふたり。ひと段落ついたようで高橋が立ち上がり真央に言った。鈴夏も立ち上がり頭を下げてお礼を言う。


「あ、先輩。今日はありがとうございました」


 高橋が笑顔で答える。


「いいよ。じゃあ、また()()


「はい、先輩!」



(明日って、それって……)


 そう、忙しいと言っていた鈴夏は、休みの間毎日高橋に会っていたのだろうか。知らない鈴夏。知らない笑顔。真央の知らない彼女がそこに居る。



「久しぶりだね、真央。元気だった?」


 そう尋ねる鈴夏。だがそれ以後の記憶は真央にはほとんど残っていなかった。

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