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41.魔王vs 母親!?

 その日の午後、結の友達はいつも通りサッカーグラウンドにやって来て一年生エースである西野の応援をしていた。


「西野君ー、頑張れーーっ!!」


 インターハイ予選で敗退したとは言え、彼の人気は不動。彼女らにとってはここで西野を応援することが何よりの幸せだった。



 ピーーッ!!


「はい、じゃあ休憩!!」


 サッカー部の顧問の声によって束の間の休憩となる。美人マネージャー達が飲み物やらタオルを持って皆の元へと駆け寄る。


「西野君、ちょーカッコいいね!!」

「そうだね。もう学校来る唯一の楽しみ!!」


 同じファン同士。知らぬ間に仲間になっている。だが今日は少しだけ異変があった。そう話す結の友達の目にまっすぐこちらに歩いてくる西野の姿が映る。


「え、ええ、ええ!?」


 そして皆が驚きの表情を見せる中、西野は結の友達の前に来て笑顔で言う。


「ちょっと時間ある? お願いがあるんだ」


 結の友達はまるで夢の中にいるかのように舞い上がった。






「結っ!! こんなところで何してるの!!」


 駅前のショッピングセンター。ラノベの聖地である大型書店。真央と一緒に本を見ていた結の前に、最も会ってはいけない人物が現れた。


「お母さん……」


(え、お母さん?)


 真央がじっと結の母親を見つめる。亜麻色の髪色は彼女と同じ。優しい目と大きな胸も母親譲りのようだ。母親が尋ねる。


「何を見ているの?」


「……本」


 母親が腕を組んで強い口調で言う。


「そんなことは分かってるわ!! どうしてそんな本を見ているの!!」


 真央は戸惑った。なぜ本屋に来て本を見ることが悪いのか。なぜ叱られるのか。だがその意味は母親の次の言葉で理解することとなる。



「そんな何の役にも立たない本を読んでどうするって聞いてるの!!」


(何の役にも立たない、本だと……?)


 結が顔を上げて言い返す。


「そんな風に言わないでよ!! ラノベだってちゃんとした本。本に優劣なんてないよ!!」


 母親が結を指差して言う。


「あるわ!! そんな底辺の本読んでどうするのよ!! 試験に出る? 入試に必要? 全部無駄じゃない!!」


「酷いこと言わないでよ!! 私はこれが好きなの。お母さんの本だってちゃんと読んでるよ。だから他の本だって……」


「必要ないわ! そんな本、許しません。そもそもこの人は誰なの!?」


 そう言って結の隣にいる真央を指差して言う。結が信じられない顔で言い返す。



「私の友達だよ!! なんでそんな風に言うの!? 信じられない!!」


 母親がラノベを持つ真央をじっと睨んで言う。


「あなた誰なの!? あなたが結にこんな本を紹介して……」



「黙らぬか、愚か者っ!!」



「え?」


 真央の見下したような視線が母親に突き刺さる。非常識すぎて言われた言葉が理解できない母親。真央が右手を真上に上げ、ゆっくりと下ろしながら言う。


「我こそは最高にて最強の唯一無二の存在、煉獄の大魔王『西京真央』なり!! この世の秩序と混沌を破壊する者。しかとその愚かな脳髄に刻むが良い!!」


 訳の分からぬ台詞。だが周りを圧倒する存在感。本を読んでいた人達が真央に注目する。


「汝、この本が無意味だと申したな?」


 そう言って真央は棚に並べられた『魔王様の憂鬱』を手にする。結が青い顔になって言う。


「ま、真央君。もういいから……」


「い、言ったわよ。そんな本、無意味だわ!!」


 売り言葉に買い言葉。母親がすぐに言い返す。真央が両手を胸の前で素早く交差させ、顎を上げて言う。


「愚か者め!! 汝のその短慮、哀憐に値する」


 真央が本を前に突き出して言う。


「これこそ我がヴァーイヴル!! 我が生きる命の根源。汝、それを否定するのか!? なぜ否定する!!」


「わ、私はそんなつもりじゃ……」


 勢いのある圧力。口籠る母親に真央が続ける。


「好きな本を読む。素晴らしきことではないか。汝はなぜそれを認めぬ? なぜ否定する!!」


「私は……」



「なぜ()を否定する!!」


(!!)


 母親が黙り込む。周りの人達は一体何の言い争いかと興味津々で見つめる。結が困った顔で言う。


「真央君、もういいよ……」



「結っ、帰りますよ!!」


 母親はそう言うと強引に結の腕を掴み、その場を立ち去ろうとする。


「あっ、ちょ、ちょっとお母さん!!」


 立ち去る親子。真央はそれをぼうっと見つめながら全身から汗が吹き出していた。



(やばいやばいっ! ついカッとなって無茶やっちゃった……)


 結の母親に対する無礼極まりない態度。周りの人達の視線が集まる中、真央はひとり頭を抱え込んだ。

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