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38.最高の打ち上げ

『図書祭り』当日、真央達の学校は短縮授業で早めの帰宅が可能となる。だが、その多くの生徒が部活や家ではなく、図書室へと足を運んだ。


「図書祭りやってるよ~!! みんな見てってー!!」


 真央達図書委員の年に一度の晴れ舞台。地味でただの『消化イベント』であったその祭りに、今年は多くの人が訪れている。



「うわー!! すごい迫力!!」


 図書室前に置かれた等身大ボード。『魔王様の憂鬱』に出てくる主要キャラが迫力を持ってそこに存在する。


「でね、このラノベはですね、実はすごい伏線があって……」

「泣きたい人はこれ!! 涙必須のラブコメだよ!!」


 また室内では図書委員達が、普段読書などしない生徒達に自作のボードで説明する。本を読むきっかけを与えるのが今回の大きな仕事。勢いで本を借りて行く人が続出。そして極めつけはやはりそれであった。



「お、おい、あれって藤原さんだろ!? めっちゃエロ可愛くねえ!?」

「いやいや、それより一緒に立っている女子。あれ、西園寺さんじゃん!! マジ、信じられねえ!!」


 やはり皆、特に男子高生の注目を浴びたのが、『小悪魔ちゃん』のコスプレをした結と美香。

 はち切れそうだった結の胸元は少し大きめのビキニで露出を減らし、また教諭からのNG対策として衣装をミニスカートにした。

 美香も同様に黒のミニスカに長めのブーツ。色気はやや減ってしまったが、()()西園寺美香の破廉恥な姿に皆の目が釘付けとなった。

 そして中央に漆黒のマントを羽織った男。



「あーはははっ!! 我こそは最強にて最高の唯一無二の存在、煉獄の大魔王『西京真央』!! 混沌と秩序を破壊し者。さあ、皆の者よ。我が命令だ。本を、ここにある本を有難く読むがいい!!」


 真央による魔王コス。元々魔王キャラとして名が通っていた彼の渾身のコスプレは、両脇に結と美香を従え更に完成度の高いものとなっていた。



「西京、マジで魔王じゃん!」

「知ってるー、あれって『魔王様の憂鬱』でしょ!!」


 皆の反響も上々。多くの生徒が本に触れ、興味を持ち、紹介したラノベのほとんどが生徒によって借りられていった。真央が思う。


(教員の指導もなかったし、たくさん本にも興味を持ってくれた。マジで大成功! そして今回はやっぱりあのふたりのお陰だな)


 そう言って未だに生徒の相手をする結と美香を見つめる。結との距離を縮める大切な『図書祭り』。無事に終わりを告げようとしていた。



(くそっ、面白くねえ……)


 そんな祭りが賑わうのを金髪のイケメン西野ユーシアが影から見つめる。サッカー部のマネージャーになるはずだった結との賭けに負け、そして学校一の美香まで奪われた。

 西野は舌打ちをしながらサッカー部へと戻って行った。






「いやー、マジ大成功だった。ありがとう、ふたりとも!!」


『図書祭り』が終わり、片づけをして帰宅の途に就いた真央と結と美香。未だ祭りの成功の余韻が三人を包む。結が言う。


「楽しかったー!! 本当最高だった~」


 もともと隠れ趣味で少しコスプレをしていた結。こうやって学校でやるコスは彼女にとって新鮮味溢れる刺激を与えてくれた。美香も言う。


「わたくしもコスプレと言うものを初めて経験致しましたが、中々楽しいものでございましたわ」


 自転車を押しながら美香が微笑む。日頃から皆の注目を浴びる彼女。だが変わった衣装を着て浴びる視線も悪くない。新たな発見であった。すでに日は落ち辺りは真っ暗。真央が言う。


「遅くなっちゃったしさ、このまま夕飯でも食べてかない?」


(え?)


 美香が固まる。対照的に結は笑顔で頷き賛成する。


「いいねいいね~。コスプレ三人衆で打ち上げやっちゃう~??」


(打ち上げ……)


 美香がその言葉を頭で繰り返す。真央が言う。



「じゃあ決まりだな。駅前のファストフードでいい?」


「いいよ~」


 無言の美香。この後バイトなどの予定は入っていないが、外食など今の彼女の家計ではとても無理なこと。



(でも一緒に行きたいですわ……、ふたりと一緒に打ち上げをしてみたい)


 財布にお金はある。ただこれは大切な今週の食費。無駄遣いはできない。


「美香ー、早く行くぞー!!」


 先を歩く真央と結がこちらを振り返り名を呼ぶ。


「い、今行きますわ!!」


 美香もそれを追いかけるように後に続いた。




 駅前のハンバーガーショップは夕方を迎え混雑していた。学生やスーツを着たサラリーマンで賑わう店内。注文の列に並んだ真央達。何を食べようか楽しそうに考える結と真央とは対照的に美香は動揺していた。


(ど、どうすればよろしいのでしょうか……)


 値段も高い。それに注文の仕方自体も分からない。とにかく初めて。何もかもが分からない状況であった。



「ご注文はお決まりでしょうか?」


 カウンターに立った店員が笑顔で尋ねる。テキパキと注文する真央と結。美香だけが顔を青くして佇立していた。


「美香?」


 様子がおかしい真央が声を掛ける。恥ずかしい。何もできない自分が情けなく感じていた美香に真央が言う。


「あー、そうか。美香はお嬢様だからこういう店あまり来ないんだろ?」


「え? ええ、まあ……」


 思わぬ助け舟。美香が引きつった顔で答える。


「何が食べたい?」


「え、ええっと。そうですね、では真央さんと同じものをお願いできますでしょうか……」


 苦肉の策。真央は大きなビックハンバーガーだが美香もそれを食べるらしい。やや驚いた真央が言う。


「そうだよな。いっぱい頑張って腹減ったもんな。じゃあ……」


 真央はそう言うと、美香の代わりに注文を行う。三人分の注文を受けた店員が尋ねる。



「お会計は別々でよろしいでしょうか?」


(!!)


 美香の全身から汗が噴き出す。外食。会計。大切な食費。自分だけがこのような贅沢をしては妹達がしっかりと食べられない。

 目の前がぐるぐる回る美香の耳に、その意外な声が響いた。



「あ、一緒で」


(え?)


 美香がそう言った真央の顔を見つめる。さっと三人分の料金を払った真央。結が笑顔で言う。


「ごちでーす! 真央君!!」


「いいよ。ふたりにはいっぱい祭りで頑張って貰ったし。結だって材料費、足出てるんだろ?」


「えへ~、しーらない」


 結が笑って誤魔化す。美香が首を振って言う。



「わ、わたくしは何も……、衣装だって藤原さんにお作り頂いたし……」


 結が答える。


「そんなことないよー。西園寺さん、とっても裁縫上手だったし。私、ほとんど何もしてないよ」


「で、でも……」


 真央が言う。


「美香のお陰でこれだけの成功したんだ。そのお礼。気にするな」


 前回は真央と結だけのコスプレ。確かに反響はあったが、今回学校一の美女と名高い美香が加わったことで、更なる大成功を収めた。真央にとってはそのお礼も兼ねたものだった。結が美香の腕を取り言う。



「さ、行こ行こ!! 真央君の奢りで打ち上げだよ~!!」


「あ、でも……」


 戸惑う美香を無理やり連れて行く結。それを笑顔で見つめる真央。

 三人だけの打ち上げ。初めてのハンバーガー。美香は涙が流れるのを必死に堪えながら、その最高に幸せな時間を過ごした。

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