37.えちえちコスプレショー、開幕!!
6月の『図書祭り』を控えた5月下旬。結と美香による『小悪魔ちゃんコス』製作が真央の部屋で行われた。事前に三人で買い出し。既製品はとても高く予算オーバーしてしまうので、生地から作成。黒の合成皮革をやや多めに買いゼロから作る。
「真央君、お待たせ~」
土曜日の朝。大きなカバンを持った結が駅の改札に現れる。迎えた真央がそのカバンを持ち言う。
「悪いな、結」
「いいよ」
荷物は携帯用のミシンに衣装用の生地など。真央の既製品のマントも手直しすることになったので、荷物が増え嵩張り重い。家に向かいながら真央がお礼を言う。
「ほんと助かるよ」
「いいって。図書祭り成功させる為だから」
「ああ」
図書祭りは成功させたい。ただその一番の理由は結と一緒に楽しみたい。その意味からすればこうして楽しく一緒に準備できる時点で成功だと言ってもいい。結が尋ねる。
「西園寺さんは?」
「自転車で来るんだって」
「本当に? この暑さの中、すごいね……」
梅雨入りを控え日に日に暑くなる毎日。電車の冷房が恋しくなるくらいなのに自転車で来るとは。
「あ、もう来てるじゃん」
真央の家に着くと、既に到着しひとり待っていた美香がこちらに気付いて手を振った。
「真央さん、おはようございます」
「おはよ。暑かったろ?」
美香の顔から流れる汗。湿ったTシャツ。胸はあまりないが美香のスレンダーな体つきがはっきり見て取れる。美香が笑顔で答える。
「大丈夫ですわ。それより藤原さん、今日はよろしくお願い致しますわ」
「ええ、こちらこそ」
真央はやや安堵した。会えば何やら口論となるふたり。出だしはまずまずのようだ。真央が言う。
「さあ、入って」
「ええ」
「うん!」
真央がふたりを自宅へと連れて行く。幸い今日両親は親族の集まりで不在。自由に家を使える。
「ああ、涼しい~」
「生き返りますわね」
冷房をつけっぱなしにしておいた真央の部屋。汗だくの皆にはそれだけで安らぐ。結が鞄の中から生地と裁縫セット、そして携帯ミシンを取り出し腕をまくって言う。
「さあ、頑張ろうね!! ある程度下準備はしてきたんで、まずは採寸。真央君、ちょっと席外しててくれる?」
「え? あ、ああ。じゃあ飲み物でも用意してるよ……」
そう言って真央が部屋を出て行く。採寸。つまりこれからふたりの体のサイズを測ると言うことだ。真央が出て行った部屋。結が美香に言う。
「じゃあ、西園寺さん。服を脱いでくださいね」
(え?)
美香は堂々とそう言い切る結を見て固まった。
(さ、採寸って、ふたり共、服を脱いで測るんだよな……)
オレンジジュースをグラスに注ぎながら真央が想像する。コスプレとは決して『出来上がったもの』を見るだけではない。その制作過程も含まれる。
真央がプレートにグラスを乗せ部屋へと戻る。そしてドアの前でその声を聞き固まった。
「うわ~、西園寺さんってスタイルすっごく良い~!!」
「そ、そんなことはないですわ! 藤原さんだって、とてもご立派なものをお持ちで羨ましいですわ」
(な、何の話をしているんだ!?)
固まる真央。更にふたりの会話が耳に入る。
「じゃあちょっと失礼してこの布、当ててみるね」
「きゃっ! くすぐったいですわ」
「うわー、柔らかい~!!」
(お、おい! 何を触っているんだ!!??)
はっきりと瞼に浮かぶふたりのじゃれ合い。このままでは理性を保てなくなった真央がキッチンへと引き返す。
「し、しばらくしてから戻ろう。今はとんでもないことになっている……」
前の世界では起こりえなかったこの嬉しすぎる展開。真央は何度も深呼吸して時間が過ぎるのを待った。
「真央君ーっ!! ちょっといい??」
キッチンでひとり心頭滅却していた真央。自室から結が大きな声で呼ぶ声が聞こえた。
「え、ああ。うん」
すっかり氷の溶けてしまったグラスに新しいジュースを注ぎ、何度も深呼吸しながら部屋へと向かう。ドアから顔だけ出す結。真央に言う。
「どうかな~??」
そして開かれたドア。
そこにはまだ仮縫いとは言え、まさにえっちな『小悪魔ちゃん』を体現したふたりの美少女の姿があった。
「す、すげえ……」
胸こそ大きくないものの、真っ赤な長髪に黒のビンテージ衣装が良く映える美香。長い脚にスレンダーな体。初めての衣装に恥じらう姿がなんとも可愛らしい。
対照的にその大きな胸が手製のビキニからはみ出しそうな結。真っ白い肌に見事な胸の谷間。動く度に仮止めの衣装がはち切れないかと心配になるほどだ。ふたりが尋ねる。
「い、如何でしょう。おかしなところはないでしょうか?」
「どお、真央君? 小悪魔ちゃんしてる??」
もう全部おかしいし、全部小悪魔ちゃん。苦し紛れに真央が『設定』を持ち出して対応する。
「う、うむ。苦しゅうないぞ、小悪魔達よ……」
それに気付いた結もなりきって答える。
「はーい、魔王様ぁ。いつものようにいっぱい愛してくれますかぁ~?」
(ぐおおおおおお!!!!!)
あの結の、『小悪魔ちゃん』バージョンによる誘惑。原作を忠実に再現した見事な台詞。動き、仕草。完璧だ。さすがは結。
それを見た美香も負けじと『小悪魔ちゃん』に変化。まだ一巻しか読んでいないが、その中で得た情報を元に真央へと迫る。
「魔王様ぁ、今宵の夜伽、わたくしに務めさせて頂けませんことぉ?」
(ないないないない!! そんな設定『小悪魔ちゃん』にないぞおおおおお!!!!)
美香のキャラと『小悪魔ちゃん』が融合した新キャラ。ここに来て彼女のポテンシャルの深さが輝き始める。結がむっとして言う。
「ちょっと、西園寺さん。『小悪魔ちゃん』ってそんなキャラじゃないよ!」
美香が赤髪をかき上げて答える。
「あら、そうでしか? でもよろしいのではないでしょうか? 魅力的なキャラを作ることが重要。ほら、魔王様もこんなにお喜びになられていらっしゃるわ」
鼻の下を伸ばしてダレる真央を見て、結が軽く叩きながら言う。
「もお!! ちゃんとやってよね!!」
「か、かたじけぬ……」
ふたりの色気の前にもはや自分の設定さえ崩壊した真央。結局この日はふたりに翻弄されながら夕方まで作業を行い、辛うじて衣装を完成させることができた。
そして『図書祭り』の当日を迎えた。