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31.強力な運命

「ねえ、結。結ってさあ、最近あの西京ってのとやたら仲良くない??」


 昼休み。一緒に弁当を食べていた結の友達が尋ねた。ご飯を頬張りながら結が答える。


「そんなことないよ。むしゃむしゃ……」


 そう言いながらも突然の告白や、自分を賭けて西野と争っている真央の顔を思い出し苦笑する。友人が言う。


「その割には図書委員になったり、楽しそうに喋ってるじゃん」


「そ、それは純に本が好きだからだよ。図書委員ってたくさん本が読めるしね」


「ふーん、嫌って訳じゃないんだ」


「まあ、最初の頃よりかは、ね……」


 初対面のインパクトは凄かった。だが知らぬ間に距離が縮まっているのも事実。友人が言う。



「結がそれでいいならいいんだけど。あ、あと夏休みの()()、忘れないでね」


「うん、もちろんだよ」


 唯はそう答えると再び友人達と一緒に昼ご飯を楽しんだ。






「お疲れさまでした!」


 夕刻、図書委員の仕事を終え皆が岐路に着く。美香も慌ただしく鞄を抱え真央に挨拶する。


「それではごきげんよう。真央さん」


「ああ、忙しそうだな。気を付けて」


 美香は軽く手を振り、慌ただしく自転車置き場へと向かう。真央が結に言う。



「じゃ、行こっか」


「う、うん……」


 今日は結が真央の家にやって来る日。理由はラノベを借りること。態度には出さないが緊張する真央。態度に緊張を出す結。ふたりが並び一緒に歩く。



(変わった人。変わった人なんだけど、悪い人じゃないかも。ラノベ貸してくれるし)


 電車に揺られ駅を降り、しばらく歩いて真央の自宅へ到着する。真央が笑顔で言う。




「さ、どうぞ」


「あ、うん。お邪魔します」


 開かれるドア。鼻に香るその家独特のにおい。来客に気付いた真央の母親が現れ笑顔で言う。



「いらっしゃ〜い! 珍しいわね、真央が女の子連れてくるなんて」


 母親にはスマホで事前に伝えてある。構わないでくれとメッセージを送っていたのだが、やはりそうはいかなかったようだ。


「うるさいな、いいだろ! さ、上がって」


「あ、はい」


 真央が母親に挨拶し、真央に続いて部屋に向かう。



「うわー、すごい! 本がいっぱい!!」


 部屋に入った真央が歓喜の声を上げる。ラノベ以外の本も多くあるが、見たことも聞いたこともないラノベが本棚にぎっしり詰まっている。


「好きなの見ていいよ」


 真央がベッドに座りながらそう答える。


「ありがと!」


「うん」


 真央が嬉しそうに本を手にする結を見つめる。



(ようやくここまで来た……)


 やり直しの世界に来てから自分を知らない結に驚愕した。

 落ち込んだ。自らを否定してしまうほど落ち込んだ。結を救いたい。彼女の隣を歩きたい。そう思っていた真央にとってそれは想像以上の衝撃だった。


「ねえ、これ面白そう!」


「ああ、面白いよ」


 だが『魔王』が自分を救ってくれた。何も変わらない。何も曲げない。結の憧れた魔王になり、強引であろうが奪い取る。決して死なせやしない。絶対に生きて二学期を一緒に迎える。結が言う。



「ねえ、そう言えば明日だよね」


「何が?」


 結がやや驚いた顔で答える。


「えー、何がって試合だよ、試合!!」


「試合? ああ……」


 真央が思い出す。明日の土曜、西野らサッカー部のインターハイ予選が行われる。試合結果の予想によって結の去就が決まる大事な試合。結がむっとした顔で言う。



「ああ、って何よ。忘れてたの!? ひどーい!! 勝手に私を商品にしておいて」


 むっとした顔も可愛い。真央が答える。


「ごめんごめん。大丈夫、負けるよ。あ、賭けには勝つけど」


「本当に大丈夫なの? 2-1とか点数予想までしちゃってたけど」


「多分大丈夫」


「多分って何よ。私、結構図書委員の仕事楽しんでやっているのに!」


 やはりむっとする結は可愛い。真央が少し設定に入り答える。



「案ずるでない。我こそは最強にて最高の唯一無二の存在、煉獄の大魔王『西京真央』。あのようなザコ勇者の挑戦、軽く捻り潰して見せようぞ!!」


 結がくすっと笑いながら答える。


「そうだね~、魔王様は最強なんだもんね」


 真央が言う。


「知らぬのか?」


「何が?」


「勇者が魔王を倒すと言う設定はもはや過去のもの。今は群がるザコ勇者を魔王様が一蹴すると言うのが王道。この本のようにな!」


 そう言って真央がバイブル『魔王様の憂鬱』を手に取り見せつける。結が笑って答える。


「ぷっ、そうだね。そうだったね。じゃあ、明日は安心て見に行くよ」


「うむ、何も案ずることはない」


「はーい」


 どこまで信じてくれているのか分からない。そう答える結に、真央が素になって尋ねる。



「なあ、結……」


「何?」


 真央の頭はずっとひとつのことで占められていた。結を救う。結を死なせない。面識のない状態からようやくここまで来た。だからもういいだろう。彼女を……



「夏休みの最初の土曜だけど、一緒に買い物に行かない?」


 ――運命の日に誘っても


 夏休みに入った最初の土曜日。その日に行われる花火大会。そこに行って結は命を落とす。だからそれを阻止する。彼女を行かせなければいい。だから真央は待った。誘ってもいいと思えるぐらいの仲になるまで。結がやや困った顔で答える。



「えーっと、最初の土曜日って確か花火大会の日だったよね?」


 結がスマホを取り出しスケジュールを確認。真央に言う。



「ごめん、その日ってもう友達と花火大会に行く約束が入ってる」


 真央は言葉を失った。

 機会を貰っても、やり直しができたとしても彼女は救えないのか。運命は変えられないのかと。

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