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26.新人図書委員、就任!!

「おいおい、西京。お前マジで西園寺のこと知らないのか!?」


 教室に入った友人が驚いた顔で真央に尋ねる。首を振りながら答える。


「知らない」


 結以外の女など目にない。この奇跡を与えてくれた天に感謝して彼女を助ける。それだけだ。友人が呆れた顔で言う。


「あのお嬢様を知らないとはねえ〜、お前本当にうちの生徒かよ」


「興味なし」


 そう答えつつもう既に美香の顔など忘れてしまっている。真央が言う。


「さ、授業始まるぞ」


「お、おう……」


 友人も仕方なく自分の席についた。






 放課後。決戦の地『図書室』。

 先に来ていた図書委員の真央と友人。今日やって来ると言う結達を心待ちにしている。



(み、美香様、本気だ……)


 同じ頃、取り巻きの女達は廊下の先を颯爽と歩く美香を見て思った。

 艶やかな赤髪を後ろで結い上げたポニーテール。サッカー部のマネージャー面接の時にも見せた彼女の勝負ヘア。絶対に落としたい相手に対してのみ見せる色っぽいうなじを強調した最強の武器。


(わたくしを知らないですって? ふふっ、まだそのような男子生徒がいらしたとは驚きですわ)


 朝の登校中に受けた変態厨二病から屈辱。怒りに燃えていた美香だったが徐々に落ち着き、今はどうやって自分の美貌であの男をメロメロにしてやろうかとほくそ笑む。



「ここですわね? わたくしを呼び出した場所は」


 図書室の前で腕を組み、そのドアを見つめる美香。取り巻きが頷きながらドアに手を掛ける。


「はい、美香様。ではどうぞ!!」


 そうして開けられるドア。中にいた人から浴びる視線。美香は堂々と赤髪のポニーテールを揺らしながら図書室に入ると甘い声で言う。



「西京さん、いらっしゃいます?」


 自分を辱めた男。その名は『西京真央』。皆の視線を感じながら美香が図書室のカウンターへと足を運ぶ。



「おい、あれって西園寺じゃね?」

「マジかよ!! めっちゃ可愛い〜」


 美香の耳に聞こえる賛美の声。当然の反応。最高の女を自負する美香の矜持。だがそれはまたしてもその変態厨二病の男によって打ち砕かれた。



()、お前?」



(え?)


 美香が唖然とする。

 誰? 誰ってどう言うこと!? 今朝、自分を呼びつけたのは間違いなく目の前の男。屈辱の中、自己紹介までした。こちらは相手の名前を知っている。なのに事もあろうか向こうが私を知らない。美香が震える声で答える。



「だ、誰って、わたくしですわよ! わ・た・く・し!!」


 カウンターに身を乗り出し、自身を指差し真央に迫る。困った顔の真央が答える。


「本借りに来たの? じゃあ、カード出して」


(な、なななななななにを仰っているの!!!)


 自分を忘れただけでなく、呼びつけた理由すら覚えていない。思わず倒れそうになる美香。慌てて取り巻きが彼女の体を支える。



「お、おい、西京。彼女、お前が図書委員にするって今朝、声掛けたんだろ!」


 友人に言われて首を傾げる真央。


「そうだっけ? あんまり覚えてないけど……」



(聞こえている、ちゃんと聞こえていますわ。一体どこまでわたくしを侮辱すれば気が済むのかしら……)


 震える足。打ち砕かれたプライド。一体この男は何者? こんなに可憐で美しい自分を全く覚えていないとは。




「あ、あの……」


 そこへ亜麻色のボブカットをした少女が、図書室のドアをゆっくりと開け顔を出す。すぐにそれに気付いた真央がカウンターから出て笑顔で迎える。


「来たか、結。待っておったぞ」


(誰?)


 悔しさに震える美香が新たにやって来たその女に目をやる。真央が結に尋ねる。


「図書委員になる決意はついたのか?」


 結は手にしたラノベのバイブル『魔王様の憂鬱』を見せながら尋ねる。


「この続きって読める? それなら別にやってもいいけど……」


 真央が両手を大きく広げ、天を仰いで答える。



「無論だ、無論無論!! これ即ち我らがヴァァイヴル。お前が望むなら幾らでも読むが良い!!」


 そう言いながら指差したカウンター。『魔王様の憂鬱』の続刊が山積みにされている。ここへは文句のひとつでも言ってやろうと思って来た結だったが、そんなことも忘れ目を輝かせて言う。


「うわ〜、すごいすごい!! 全部読んでもいいの?」


「当然だ。これこそ我らが原点。苦しゅうない、好きなだけ読むがいい」



「やったー!! ありがと、()()()っ!!」



(え?)


 真央、そしてそう口にした結も一瞬思考が停止した。



(結、それって、その呼び方って……)


 間違いなく前の世界での呼び方。記憶がシンクロしたのか。結も口を押さえて考える。


(なに『真央様』って!? えー、真央様!!??)


 真央を見つめる。


(なんであんな変態厨二オタクを『様』付け? あ、あり得ないでしょ!! でも……)


 結が胸に手を当てて思う。



 ――何だろう、この温かな気持ちは。


 言葉に言い表せない。どこかで感じたことのある温かな感覚。初めてではない不思議な懐かしさに結の胸が大きく鼓動する。




「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」


 黙ってそれを見ていた美香が立ち上がり、真央と結を指差して言う。


「これは一体ど言うことなんです!!」


「あ、西園寺さん……」


 結がその学校でも有名な女子に気付いて声を出す。美香が真央に言う。


「わたくしを覚えていなくて、どうしてこの女だけ分かるのかしら!!」


 真央が答える。


「当たり前であろう。この女は我にとって特別な存在。どうして忘れることなどできよう」


(え、ええええええええっ!?)


 いきなり皆の面前での大胆発言。公開告白!? 顔を真っ赤にした結を見て美香が言う。



「この女が特別!? どこが特別なんです!? ありきたりな顔に、へ、平凡が服を着たような女ではございませんこと!?」


 結がムッとして言い返す。


「ちょっと西園寺さん。それはあまりにも失礼じゃ……」


 そう言い掛けた結の言葉を真央が遮り、右手を前に突き出して叫ぶ。



「おい、女。それ以上、結を侮辱してみろ。この最強で最高の煉獄大魔王『西京真央』が許さぬぞ!!!」


(!!)


 不覚にも美香は後退りした。

 全ての男を支配するべき最高の女。その自分がたかが厨二病の同級生に怖気付くとは。美香が言う。



「ふふふっ、いいですわ。やってあげましょう」


 皆の視線が美香に向けられる。美香がポニーテールを手でかき上げ真央に言う。


「わたくしも図書委員になって差し上げましょう。よくて?」


 こうして美香の図書委員就任が決まった。そしてこれが結と美香の仁義なき争いの第一歩となった。

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