18.凶報
「朝か……」
結局神社の社で一晩を明かした真央。何もすることもできず、ひとり静かに不甲斐ない自分と向かい合った。
「帰ろう」
時間は分からない。昨晩からスマホの電源は切ったままだ。今日もまた曇り空だが、うっすらと東の空が明るくなり始めている。電車はあるかどうか分からないがもうここに居る必要はない。
(ちょっと寒いな……)
夏とは言え雨に濡れたまま一晩夜風に当たっていた。体が冷えている。真央は手で腕を擦りながら駅へと向かった。
朝の電車に揺られながら真央が外の景色を眺める。
もう鈴夏のことは考えなかった。結局自分はあの街にけじめをつけに行ったのだと思える。ずっと自分の中で生き続けた鈴夏。初めての彼女。大好きだった彼女。自分の不甲斐なさで失ってしまったその大事なものにちゃんと向き合う為に訪れたのだ。
(何が最強の魔王様だよ。聞いて呆れる)
本当は弱く女々しいただの男子高生。設定などと言うくだらぬ理由で強がっていた。幸い今は夏休み。好きなラノベやアニメを腐るほど観て怠惰に過ごそうと思う。真央は電車に揺られ、知らぬ間に眠りについていた。
「あー、何か寒気がする……」
家に戻って来た真央は悪寒を感じすぐにベッドに潜り込んだ。雨に濡れたまま夜風に当たっていたせいだろう。風邪を引いたのかもしれない。家にある薬を飲みその日はゆっくりと体を休ませた。
翌日。まだ頭がぼうっとする真央がベッドから起きリビングへと向かう。
「あら、おはよ。早いわね」
朝食の準備をしていた母親が真央に気付いて声を掛ける。
「うん、今日学校があって」
「学校? 夏休みなのに?」
「図書委員の仕事。今日は行かなきゃ」
真央は微熱があるのかぼうっとしたまま朝食を食べ高校へと向かう。夏休み入って初めての学校。図書室。真央は登校中の電車の中でうとうとしながら向かった。
ガラガラガラ……
夏休みの学校は静かだった。グラウンドでは野球部とサッカー部が猛暑の中汗だくになって練習している。ボールがバットに当たる甲高い音。セミの声。風邪気味の真央にはそのすべてが頭痛を増長させる。
「お疲れ……」
図書室のドアを開けた真央。先に来ていた他の図書委員が入って来た真央に気付き驚いた顔をする。ぼうっとしていた真央。だがその異変にすぐに気付いた。
「西京、お前どこ行ってたんだよ!!!」
「え?」
図書委員の友達が血相を変えてやって来る。どこに行っていた? 彼と何か約束をした覚えはない。真央が答える。
「どこって、なに……?」
頭痛がズンズンと痛みを増す。頭が何かを考えるのを否定しているようだ。友達が言う。
「何じゃないだろ! お前、藤原結が亡くなったって知ってるのか!?」
「えっ……」
頭痛。頭のもやもや。そんなものが一気に消えて行く。
「え、おい、何言ってんだよ……、藤原が亡くなったって……」
その言葉の意味が信じられない真央。いや信じたくない。友達が言う。
「一昨日の花火大会の時に車にはねられて……、頭の打ちどころが悪くてそれが原因で……」
そう話す友人の目が赤くなる。別の図書委員の女の子が言う。
「西京君、全然連絡取れないから。スマホ、どうしてたのよ??」
「スマホ……」
真央はあの日、夏祭りの夜に鈴夏と別れてから電源を切っていたことに気付く。それから風邪を引きずっとそのままになっていた。
ティロリン……
電源を入れたスマホ。電波を受信すると同時に幾つものメッセージや着信を告げる音が鳴り出す。真央が崩れるように床に膝を付き小声で言う。
「藤原が、そんな、嘘だろ……」
――私は真央様のことが好きなんですよ
結の言葉が真央の頭に甦る。結の声。明るい笑顔。
「嘘だ、そんなの嘘だ……」
真央はうな垂れ、目からぼろぼろと涙が溢れ出た。




