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10.図書祭り、大成功だぜ!!

 毎年6月に行われる地味な行事『図書祭り』。目立たない図書委員がどんな基準で選んだか分からない本を幾つも紹介するイベント。恒例行事となっており予算も付くことから毎年行われているが、やっている方も見る方もそれほど関心は高くない。だが今年は違った。



「うわっ、何これ!?」

「すごーい!!」


 図書室に置かれた『魔王様の憂鬱』の本。その横には小説に出て来るメインキャラの等身大パネル。そして分かり易く興味を引く説明ボード。だが何より皆の目を引いたのが図書委員による渾身のコスプレ衣装であった。



「がーははははっ!! 我こそは最強にて最高の唯一無二の存在、下々の者が神と崇める恐れ多き大魔王『西京真央』である!! ひれ伏せよ、そしてこの本を読むがいい!!」


 完全になり切っているというか、真央にしてみればいつもの設定通りの自分。だが今日は結手作りの真っ黒なスーツにはためくマント。腰にはサーベルと言う小物までついた完全スタイル。『真央=魔王』という方程式がすでに皆の頭にあり、それがより具現化した光景。

 さらに皆、特に男子生徒達の視線はその横で笑顔を振りまく亜麻色のボブカットの少女に向けられた。


「あれって、藤原だろ? 可愛くね??」

「マジマジ!! 衣装エロエロじゃん!!」


 結が着て来た衣装、それは黒のビンテージを彷彿させるビキニタイプの衣装で、スカートは超ミニ。背中には小悪魔のシンボルである小さな黒き羽。それでいて胸の谷間もしっかり拝めるパーフェクト構成。最初それを見た真央は言葉を失うほど見惚れてしまったが、何せ本人がやる気満々だったので一緒に立つことにした。


(下部Aよ。汝、それほど立派なものを持っておったのか……)


 設定になり切りながら、隣に立って皆の相手をする結の胸元を見て様々な想像をする真央。地味な図書祭りイベントがいつの間にか大勢の人で溢れるほどの人気になっている。結が『魔王様の憂鬱』の本を持って皆に言う。



「私のコスはこの本に出て来る小悪魔ちゃんのコスで~す!! みんなもた~くさん本を借りて読書しよ~ね!!」


 そう頭を斜めに傾け皆に読書の啓蒙を呼びかける。盛り上がる図書祭り。普段本に興味のない生徒達も噂を聞きつけ次々とやって来る。大成功。真央も結もそう思った。



「こらーっ!! それは一体何なんだ!!」


 そこへ図書祭りの責任者である女教諭が血相を変えてやって来た。目線の先にはエロエロ衣装を着た結。指差して大声で言う。


「藤原さん!! あなた一体学校でどんな衣装着ているのですか!!」


 名指しされた結がやや驚きながら答える。


「あ、あの、企画書に書いておいた小説の衣装で……」


 確かに書いた。だが詳細は書かなかった。書いたら間違いなく却下。硬派な行事である図書祭りに採用されるはずがない。想定外を嫌う教諭。すぐに結に命令する。



「早く着替えてきなさい!! そんな不適切な服装、認められません!!!」


 教師としては当然であった。学びの場でそのような異性の性的感情を煽る服装を認める訳にはいかない。ただコスの衣装としては決して露出が多い訳ではない。結が食い下がる。


「先生、お願いです!! これを着させてください!!」


 ここで着替えてしまったら集まってくれた皆が悲しむ。女教諭が首を振りながら答える。


「ふざけてないで早く行きなさい!!」



「お願いします!!!」


(え?)


 結は教諭の前で両手両膝をつき、土下座をしながら懇願した。



「お願いです!! 絶対に成功させたいんです!! これは本当に大切なイベントで……」


 声が震えている。もしかしたらこれで終わりにされるかもしれない。真央は焦った。だがすぐに決断して教師に言う。


「先生、俺からもお願いです!! 藤原には制服を着させますんで、このままイベントを続けさせてください!!」


 真央も結の隣に両手両膝をついて頭を下げる。教師に土下座する生徒ふたり。あまり良いとは言えない光景に教諭が先に折れる。



「ま、まあ、藤原さんの衣装を変えるのならば問題ないです。さ、早く頭を上げなさい。それで着替えて来てちょうだい」


 教諭の本音。これ以上問題を大きくしたくはない。


「じゃあ、イベント続けてもいいですか?」


「いいわ。だから早く着替えて来て」


「ありがとうございます!!」



(真央様……)


 隣で安堵した表情を浮かべる真央を見て、結は心から居た堪れない気持ちになった。





「ごめんなさい、真央様……」


 図書室のカウンターの影で学校の制服を羽織る結。祭りは他の図書委員が代役として皆の相手をしてくれている。真央が背を向けたまま答える。


「いいさ、藤原はよくやってくれたよ」


 本心だった。これまで地味で誰の話題にもならなかった図書祭りを今年は盛大に盛り上げた。それだけでも十分である。


「それにしても驚いたな。いきなり土下座とは」


 あれは誰も想像していなかったこと。結が答える。



「私、絶対に諦めたくなかったんです。真央様との図書祭り」


「うん……」


「諦めたら終わりだって思ったらつい……」


 真央が目をつぶり頷いて答える。


「大儀であった、下部Aよ。褒めてつかわすぞ」


 本心。設定を借りた感謝の言葉。



「はい、ありがとうございます。真央様」


 そう言って着替え終わって姿を現した結。制服と言っても透け透けの夏のブラウス。ビンテージがエロい黒の下着に見えて、それはそれで男子生徒からの評判は上々であった。





(楽しかったなあ。いや、本当に楽しかった!!)


 家に帰宅後、食事と風呂を終えた真央がひとり部屋の中で今日のことを思い出す。想像以上の結の活躍。反響。本の啓発もできたし、自身の魔王としての知名度も上がった。素直に楽しかった。



 ティロリン……


 だがそんな余韻に浸る真央のスマホが一通のメッセージの受信を告げる。



(鈴夏? 何だろう……)


 嫌な予感がした。そしてそれは的中した。



『ごめんね、真央。私達、もう終わりにしよう』


 別れを告げる通知。何の前触れもなくそれは突如真央に届けられた。

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