表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/90

82.ただいまフォレン村!

 

・ ・ ・ ・ ・



 果樹園の外れ。熟れかけて芳醇な香りを放つ黄梅の樹々のあいだで、ヴィヒル少年と老人が、森を抜け出た一行を待ち構えていた。


 アラン同様に耳のよい息子のヴィヒル少年が、“第十三遊撃隊”のやかましき気配を聞きつけていたのだろう。



「お母ちゃん!! あっ、リオナだ……見つけたんだね!?」


「そうよー。取り返してきたんだから、安心おし」



 獣人の背中からひらひら手を振る母のもとに、息子は駆け寄る。



「おじさん……! 来てくれていたの!」



 アンリは即座に頬をてからせながら、まるまるとした小柄な老人のもとへ小走りに近寄った。


 ぺかっ! 走り寄られた老人の頬もまた、もも色にてかる。白い口ひげを生やした初代蜜煮おじさん、アンリの母方のおじだ。蜜煮屋を引退して店をヴィヒルに譲り、今は村はずれの小さな家に住んでいる。



「皆に話を聞いてな、留守番に来とったんだ。ヴィヒルさんとミオナちゃんは、駅馬でテルポシエに向かったぞ」



 ヴィヒル少年は、村長さん宅へ連絡に走った。一行は魔女と娘を店の中に運び込み、やはりぐうすか爆睡中のリオナを長椅子にのせる。アランは店の内所で傷を洗った。


 やがて、往来の方からどやどやとしたざわめきが聞こえてきた。アンリが店の正面扉を開けると、りっぱな馬が数頭、門前あたりにいる。


 軍馬を借りたらしい、父ヴィヒルの後ろに同乗していた長女ミオナが、すばやく降りて走り寄ってきた! 娘に向かって、アンリは頬のてかりを最大限に上げながら叫んだ。



「見つけたよー! リオナちゃんは、無事だよー」



 わああ、騎乗の全員が安堵の歓声をあげた。その周り、来合わせていたフォレン村の人々も、どっと声をわかせる。


 内所に走り込んだミオナ、続いて父ヴィヒルは、長椅子の端に座るアランと、眠り続ける末っ子の姿を見た。


 がばり、……大きな体躯をかぶせるようにして、ヴィヒルは妻を抱きしめる。



「いた、いたた、ちょっとヴィー、ひげが痛い。これはたいした傷じゃないっての、……あ~もう、泣かないでって……」



 常人に聞こえぬ声でむせび泣く父の後ろで、ミオナは立ち尽くしたまま、真っ赤な顔をゆがめていた。



「よかった……、連れて行った悪い人達は……?」



 泣き出したいのを必死に我慢するように、低い声を絞り出しながら、傍らにいるナイアルとイスタを見上げる。



「追っ払った。あとで母ちゃんから、詳しく話を聞かしてもらいな」



 副長の言葉に、少女は小さくうなづく。



「お前も頑張ったな。……おばちゃんを、連れてきてくれたのか」


「……エリンさんが、お城に一緒についてきてくれて、……」



 言葉の終わりは、がくがくと始まった震えにかき消された。


 ミオナはうつむいたまま、ナイアルの革鎧胴にぶるぶるとすがりつく。少女の中では恐怖と安堵が一挙にないまぜになって、めまいがしていた。ナイアルは静かに顔を上げて、娘の背後に目をやる。



「……ありがとよ。直接リオナをさらった奴らは、アランと俺らがのして追っ払ったが、仲間がいないとも言い切れん」


「その手の不審者は、今のところどこの網にもかかっていない。しばらくは街道に人員を配備して、狩り続けるから心配いらない」



 ミオナの肩を抱きつつ言ってよこしたナイアルに、戸口ちかく音もなく佇む大柄な女は低く答えた。革鎧の上に海松色の巻外套姿、その後ろには墨染黒衣の傭兵らしいのが三人控えている。



「イオナちゃん」



 魔女に声をかけられて、王妃はふわりとヴィヒルの背後に立つ。燃えたつような豊かなあか髪を揺らして、兄の腕の上から、イオナはアランを抱きしめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ