69.食事の後は腹ごなし
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“ヴィヒル蜜煮”はそこからフォレン村を横切った、西側の外れにある。
低い石積みの塀が沿っている小道に、かわいらしい藁ぶき田舎家の続く中を歩いて、一行は村の中心に出た。
「おう、すげえ繁盛っぷりだな……?」
少し離れたところからも、集まった人びとの賑わいがよくわかる一画があった。店先に数人が立っているのが順番待ちの列とわかって、ナイアルは脇を歩くアンリに声をかける。
「ああ、あそこが“野ばら煮物”ですよ!」
村の集会所と広場に寄り添うような場所にあるその店は、立派な構えの二階家だ。きれいに塗られた緑色の玄関扉、陽当たりのよい石づくりの壁面には、ばらの枝がからみついて、たくさんの花を咲かせている。
店の周りには小さな外側席もいくつかあるらしいが、こちらも満席のようだ。給仕が忙しそうに立ち回っている。
――いかした客の入りっぷりだな……! 本当に、どうしてこっちが“ももの実賞”にすっ飛ばされるのかね?
自分たちも、むしろ“野ばら煮物”の方こそ偵察して参考にすべきだったのでは……と思いつつ、ナイアルは小首をかしげた。
“フォレン食堂”とは比べ物にならないほどの人気ぶりである。アンリの話からしてずいぶんと古い店のはずだが、ぱっと見で外観が新しい。まめに外装に手をかけられるということは、順調に儲かっているのだろう。
――うーむ、うちの“金色のひまわり亭”も、あやかりたいもんだな。いや、大将のてづくり風外装がいけてねえとか、どうこうってわけじゃ決してないぞ……。
「おい」
次回いつフォレン村に偵察に来れるかと算段していた副長に、音もなくビセンテが近寄る。ぼそりと耳打ちするような声をかけた。
「まじょが困ってる」
「ああ?」
「まじょっ娘も、困ってんぞ」
「……何だ? アランとミオナが、どうかしたのか?」
ととと……
獣人は答えず、小走りに駆けだして行ってしまった。
「あああっ、ビセンテさーん! 待ってください、食べてすぐに走っちゃあ、消化に悪いですよーッッ」
「そうだ、くだしてしまうぞッ」
早足で追いつつ、アンリとナイアルはビセンテの背中にがなる。
のんびり平和きわまりないフォレン村で、厄介ごとなんて起きるわけがないのにと、この時二人はたかをくくっていたのだった。




