67.テルポシエ鍋、東部アレンジ!?
「おおおう」
「わあ」
大鉢の中で、ふるふると震える金色の煮凝り。でかい木べらで各自すくってどうぞ、ということでアンリがはりきって取り分ける。
「おやっ、何か入っている! ……あさつきと、……む? これは……」
「きのこでないのか。歯ごたえなしってわけじゃねぇ、ビセンテも食うかー?」
先日、料理人がテルポシエ城から持ち帰った玉子こごりは、獣人のお気に召さなかった。噛みごたえのないものは嫌いなのである。……今回もビセンテはふるふる頭を横に振った。代わりに白かぶの漬け物を、ばりばり食べ始める。
「……」
「うま!」
「……」
第十三遊撃隊の秘蔵っ子イスタが素直に言うように、その白たけ入り玉子こごりはうまかった。……うまいのだ、が。
――しろうとっぽい。
アンリとナイアルは、胸中で同時に呟いた。薄味、……家庭料理にありがちな、ふんわりとした印象の味付けなのだ。そしてエノ料理長の玉子こごりに比べても、だいぶんゆるめな食感である。
――すごい、すんごい、うーまーい。徹夜明けに、たべたい感じー。
ダンだけは内心手放しで絶賛しているのだが、その辺顔に出さない人であるがゆえ、黙々と木匙を口に運んでいる。充血した眼が、微妙に煌めいているのがこわい。
やがて、うさぎの煮物と粥の入った鉢が運ばれてきて、一行はそちらにも口をつける。
「ナイアルさん。……これは……!」
木匙を入れて、ひと口食べたアンリが囁いた。言うまでもないが、顔が毛筆描写になっている、真剣すぎて濃ゆい。
ぎょろんと料理人に目をやり、ナイアルもうなづく。
「ああ。玉子こごりを出しているところで、もしやと思っていたが……」
「……東部系の料理人ですね!」
野うさぎにせりの香草類、素材はごくありふれたテルポシエ風の鍋煮物だ。しかし、うさぎ肉の煮方が浅い。そのあっさりとした肉感をならしているのは、隠し味として入れた魚醤に間違いなかろう。きわめつけ、汁に独特のとろみがある!
「ねえ、お粥もとろっとしてるよ、これ。料理ぜんぶに海藻入れてるなんて、珍しいよね?」
屈託なく言ったイスタに、アンリは濃ゆい顔のままうなづく。そう……。これは東部風に工夫翻案された、テルポシエ料理だった。
――なかなかに、うまい。俺はうまいと思う。しかし……。定番テルポシエ料理を期待する客にとっちゃ、かなり独創性がきつかねぇか……?
ナイアルが悶々と考えながら食べ進めていると、かたんと扉の開く音が響いた。“フォレン食堂”に、新しく客が入ってきたのである。




