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66.“フォレン食堂”偵察

 

 フォレン村に公共の厩舎はない。白い石積み塀をくぐり、村に入ってすぐのところに店を構える駅馬業者に馬車を預けて、一行は“フォレン食堂”へと向かう。



「……」



 駅馬業者に聞いた道をたどってきたものの、その店は予想と違ってずいぶんとみすぼらしい外観だった。


 ミオナは新しくできた店と言っていたが、これは新参者・・・と言う意味の新しさだったのであろう。フォレン食堂、とたよりなげな筆致で書かれた看板はごく小さく、古びたいなか家の周囲には花鉢も置かれていない寂しさである。



――……まあ、外観を裏切ってめちゃくちゃうまい料理を出す店、ってのはよくあるしな……。



 ナイアルは内心でそう言いつつ、先頭に立って扉を押してみる。



「いらっしゃい、ませー……」



 はかなげな男性の声が一行を迎えた。中型の卓子が六つあるきりの狭い店内、やせぎすの中年男性がそのうち二つをくっつけて角席を作ってくれる。アンリたちの他には、地元客とおぼしき年輩夫婦がひと組いるだけだった。



「今日は、野うさぎのせり煮をお出ししています……」



 ほっそりしたおじさんは、はかなげな声で言った。鍋一種のみ、他に選択肢はないらしい。



「それと、冷菜に玉子こごりとお漬物もございます。当店、お粥とぱんは食べ放題ですので、ぜひお言いつけ下さい……」



 窓が小さくやや薄暗い店内ではあるが、アンリは頬をぺかーッとてからせた。ナイアルはぎょろ目を見開き、イスタは聡明なる黒い瞳をきらめかせる。


 ビセンテは野うさぎの骨に期待をかけてぶっちょうづらをますますしかめ、ダンは自分で決めるのめんど臭いからナイアルかわりに注文して、と思っている。



「そいじゃ、全員に野うさぎ煮とお粥をお願いします。一人分だけ、骨をめいっぱい盛ってもらえますか」


「はい、かしこまりました……お骨ですね……」


「ナイアルさん。たまこ・ごごりも、ぜひ~!」



 アンリは顔を焼きたてに紅潮させつつ、ナイアルの麻衣袖をきゅッと引っ張って低くねだった。



「あー、俺も食べたい!」



 若きイスタも、素直にねだる。



「皆さんで召し上がるのでしたら、玉子こごりは大鉢でお持ちできますよ……」



 おじさんは注文票とともに、店の奥へとはかなく消えた。


 仕切りがあるから厨房の様子は見えないが、良い匂いの漂うところからして、すぐ近くで料理をしているらしい。



「……なんだか、なつかしい匂いがするな」



 おやを口にしながら、イスタが呟いた。



「そうだね。岬のお婆ちゃんちの台所に、似たような香りがするね!」



 アンリは弟分の感想に同調したつもりで言ったのだが、イスタは小首をかしげる。



「うーん……いや、もっと昔にかいでいた感じなんだけど……。何の匂いだろう、魚醤ぎょしょうかなあ?」



 ナイアルはさりげなく、店内の様子を観察してみる。


 外見同様に古びた室内だが、きれいに掃除が行き届いていた。卓子と腰掛は全て不ぞろい、中古品を集めて来たと見える。上に置かれた木匙と手巾は新しいが、安物だ。出窓にぽつんと置かれたすみれ鉢以外には、装飾らしいものもない。……と思ったら、入り口扉の上の方に、わら細工のようなものがかけてある。



――……?



 見覚えのない、不思議な編み細工だった。花のような、風ぐるまのような、……何とも言えない形をしている。強いて言えば、四つ足をつき出した太陽と言うところだろうか?


 ナイアルがそれに気を取られているうちに、おじさんが玉子こごりを運んでくる。



「おおおう」



 目ざとく見つけたアンリが、頬をぴかっとてからせた……。こいつも小さな太陽みたいな男である。






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