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51.会いに来てくれる名優

 

 陥落戦。


 イリー暦188年、あの最悪の冬の一夜が明けたのち。


 ダンの率いる(……この表現は正しくない。実際に隊を誘導していたのは副長ナイアルである)旧テルポシエ軍二級騎士の“第十三遊撃隊”は、シエ半島に広がる森の中で息をひそめていた。


 エノ軍の仲間らしい海賊どもから分捕った食糧で食いつなぎ、磯の岩窟や森中の大岩陰で小さく火をおこして、暖を取っていたのである。


 これからどうするあてもなく、どこへ行けばいいのかもわからない。


 常日頃からうとましく思っていた“責任”にいらいらとして、ダンはますます無口になっていた。


 ナイアル、ビセンテ、アンリ。配下のこの三人、加えて捕虜の子どもの責任なんて……とれるわけがない!



 そんな折、森に入りこんできた地元民の若い男と出会った。


 迷惑をかけたくなくて、ナイアルとダンはそうっと立ち消えようとした、……しかし彼は「待ってくださらんか」と引き留める。


 何をどうしても間違えるわけのない、正真正銘のテルポシエ東部訛りにて。


 その男は、ダンたちの姿を見ただけで、全ての事情を察したらしかった。自分はテルポシエの中枢・・とつながりがある、ウルリヒ王はたおれたがエリン姫はまだ生きているのだ、と彼は語った。



「騎士と貴族らは、次々に追放処分を受けています。しかしエノ軍は、市民兵に関しては処罰をしない方針らしい。武装を解いて、平服で市の門をくぐれば黙認されますし、皆さん家に帰ってよいのですよ」



 いまやがらりと口調を変えて、きれいな正イリー語で話している間諜氏に、何となくダンは既視感をおぼえた。



 ナイアル提唱、“対エノ軍・独自けんか戦線”を張って、数年のち。


 会うたびに異なる容姿と声色でやってくるこの間諜氏が、あの尊敬する名優レイ・リーエなのだと、ダンは確信した。……確信したが、彼は何も言わなかった。


 言えば、自分が元追っかけだったことも周囲に知れてしまう。


 そこで時々、その事実を思い出しては、ひそかに口角を上げるだけにとどめた。こわい。




 長年、各地に散って潜伏していた旧軍“第九団”の騎士達と、テルポシエ城のエリンとをつなぎ通したレイは、今でも情報参謀として、エノ軍と一体化した新生テルポシエの幹部会議に加わることがあるらしい。


 それでも、表向きは俳優のレイ・リーエとして、“東座”で舞台に立っている。


 こうしてダンに衣装直しを頼んだり、エリンと香湯を飲んだり、ふらっと昼食を食べにくることもよくある。


 ……そう、いまやレイはダンにとって、会いに来てくれる名優なのである!!



――こけら落とし……行きたい……。そうだ、ビセンテのお母さんさそって、一緒に行ってもらおう……。



 そうして今のダンは、故郷にひとりではない。


 いろんな人、頼れる人たちに囲まれて、ついてく専門でも十分しあわせなのである。






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