45.副長ナイアルの短き春
――うおおおおおおお!! でかい! 細い! 面長・典型的イリー美人、文句なしの星五つ、……どころじゃねええええ!!
あまりに唐突に出現した、自分の好みそのまんまの女性……、いやむしろ理想の伴侶像! ナイアルの心は瞬時に沸騰し、喜びに打ち震える。
――これは運命だ、何がどうでも俺はこのひとの前にひざまづき、恋を乞わねばならんッッ! ああ黒羽の女神さま、ありがとう!!
計算づくで生きてきた乾物屋の息子は、一生に一度のひと目惚れに今、その身を投げうとうとした。
「あーなたー!!」
花咲く笑顔の運命の女は、猛然と走り寄りながら叫んだ!
――ええっ、貴女も俺にひと目惚れ? そりゃそうだ、これが運命ってやつなのだから……!
ナイアルは思わず、その両腕を広げかける。……が。
「あんたーッッ」
副長のすぐ横にいた蜜煮職人イームがぴょいーんと跳ねて、のっぽ美人の胸のあいだにとび込んだ。
がしーッ、熱き抱擁! ぶちうーッ、続くあつき接吻!
「えー……???」
ナイアルとナイアル父、アンリの目が点になった。
少し後ろで隊長ダンは、それもまぁ有りじゃなーい、と思う。ビセンテは、奥歯に挟まってしまったするめのことしか考えていない。
「とんでもないことになっちまったよ、カーフェ!!」
「あなたが無事でほんとに良かったわ、イームさん!!」
双方、悲しみと喜びのにじむ声で、女たちは囁き合う。
「心配していましたよ、イームさん……! それで後ろの皆さんは、どちら様なのでしょう?」
色白美男デリアド騎士に肩を触れられて、女ふたりはようやくはがれた。イームはくるりと振り返って、“第十三”の面々を手でさし示す。
「エンダ君、カーフェ。あたしのいとこの、アンリだよ。仲間の皆とあたしを探しに来て、スターファさんの追跡を手伝ってくれたんだ……」
「まあっ」
「それは、それは……!」
「ふが」
「ほご」
エンダ青年の少し後ろにいる、槌矛のようなもので武装したじいさんとばあさんが、ともにほのぼのした歓声を上げている。
「でもって、皆! こちらデリアド文官騎士のエンダ君と、……これがうちの人! “さしもぐさ”工房責任者の、カーフェだよ!」
「カーフェ・ニ・ディフラーヴです。よろしくお願いしますね」
頭巾を下ろしてあふれ出た、明るい金髪ちぢれ髪は鳥の巣のよう。温かく優しく笑うその女は、隣のイームの頬ぺたに負けぬ勢いで、きらきら松明の光に輝いていた。見た目からして、熱源みたいな女性である。
「……テルポシエ北区乾物商、“紅てがら”のナイアルです……」
すかすか軽石に転生した気分だが、傷心のナイアルを裏切るかのように、その口はすらすらお店言葉を唱える。
「……ならびにその父でございます。今後どうぞごひいきに」
父は父、老練である。まったく同じ音声で、如才なく続けた。……




