表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/90

43.崖を背に

「……何てこと、してくれたんだよ。あんたら」



 どすの利いた低い声……。ビセンテ以外の全員が、何かの聞き間違いだと思った。



「馬をようようなだめて、ここまで来たが……。こいつら二頭は、もう限界だ。かわいそうなことしやがって」


「……スターファさん??」



 てかる頬に混乱をにじませたイームを、上背のある女はちろりと見下ろした。



「あんたがいなけりゃ、男どもを全員殺してさっぱり終わりだったのによう。そいつはどうにも胸くそ悪い……あんちくしょうめ。まったく、探してる奴も見つからないし、ふんだりけったりだ」



 ちりちり暗色髪をふさふさと揺すって、女は溜息をついた。次いで、右手首にじゃらじゃら巻いていた金の鎖を取って、イームに手渡す。



「タリナの面倒ぶんだ、とっといて。あれは何にも知らないみなしごなんだから、あんたに後をたのむしかない。どこぞのかかさまと縁づけてやっておくれ。……そいじゃあな、あんたとカーフェさんとは、いい人だったよ」



 すたすたすた、女は大股で路傍へと歩いてゆく。



「ちょっと……スターファさん?」


「奥さん、一体なにが……」



 イームとナイアルが話しかける中で、アンリはぴよッと思い当たる。



「あーわかった。奥さま、お腹すきすぎなのでは? 何か召し上がりますか、簡単におつくりしますよー」



 この状況で、料理人ッ!


 くるっと振り返ったスターファは、その言葉にわずかに噴いたのかもしれない。海を背に、口角を片方ちょっとだけ上げた。



「……いい人すぎて、失敗したよ。あたしゃ」



 とーん……。



「あっっっ」


「あああああっっっ」



 皆の叫びが流れる中、女は軽やかに後方へ跳んだ。



「スターファさーん!!」



 崖っぷちに駆け寄るイームを、アンリはがしりと抱きとめた。その料理人の上腕を、ナイアルがつかむ。



「もう……、だめだっっ」



 副長の腕を、さらにダンのでかい手と、しわのよった父の手がつかんだ。


 互いにつかみ合ったまま、一同は崖の下をそうっとのぞく。波が打ち寄せる岩肌と岩礁の連なりは、闇にまぎれて何もわからない。



「何てことだ……、スターファさんっ」



 涙のにじむ声で、イームがむせんだ。



「一体、どうしてっ……!」


「ナイアルさん。あの人、自分でとびました」



 くわっと赤く頬をてからせて、イームを強く抱きしめながら、アンリはナイアルに囁いた。副長も顔をしかめて、アンリの腕をつかむ手に力を込める。



――あの女は、さらわれたんじゃねえ。もともと一味の仲間だった、つうことか……!



「ナイアル! 何か、こえぇことになっちまったぞ……!」



 深刻に言うものの実際は息子が落っこちるのが一番こわくて、思わずナイアルの腕をつかんでしまっている父が言う。


 同様の理由、皆に墜落されたら一人では到底うちに帰れないと心配になって、副長の腕をがっちりつかんでいるダンも呟いた。



「……とりあえず、退こう」



 茫然と後じさるナイアル、アンリとイーム……。そのナイアルの耳元に、音もなく寄って来た獣人が、ぼそりと言葉をかけた。



「あいつ。……あの女」



 ぎらりと光る副長のぎょろ目は、頭巾の下のビセンテの蒼い瞳に――珍しいことだが――、疑惑と不安とが満ちているのをとらえた。



「……うたって・・・・やがった。ずっと」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ