表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/90

32.どっきりバンジー料理人

 

「ほらー、大将、もう一息。デリアドの港っすよー……」



 よろよろのふらふら……。どうにかこうにか長槍およびビセンテのなで・・肩にとっつかまって、“第十三遊撃隊”隊長ダンは、眼前に迫る狭っちい漁港をじっとり見つめている。



――あーじれったい、さっさと着いちゃって、もう……。金輪際こんりんざい、舟になんか乗んない。ぜったい絶対、のりたくない。



 故国陥落と、続く十余年の潜伏を耐えしのいだ遊撃隊長が、珍しく平常心をうしなっていた。


 到着まぢか、ようやく静まってきた海上の様子を見計らって、乗客らの多くが甲板に出てきている。“第十三遊撃隊”の面々もしかり。ほっとしたような淡い青空が、厚い雲の合間から顔をのぞかせていた。



「ようやく着いたな。しんどい船旅だった……」



 ナイアルも安堵しかける。


 じきに鈍い震動が船体ぜんたいを震わせて、定期航行船は接岸するのだ……。



 む、わんッッ。


 しかし皆が待ちにまっていたその瞬間は、なにか間違った感触に取って代わられた!



「わッ」


「うわっっ!?」


「きゃあ」



 何の加減だろう、船体は大きく左側へかしいだ。向かって左舷側にいた人たちが、口々に小さく悲鳴をあげかける……その時!



「リブーッッッ」



 ふわぁあん、と小さな影が船べりを越えてしまった。投げ出された娘の身体をつかみ損ねた若い父親が、ぷよぷよっとよろめきながら絶叫する。



「!!!」



 やっと視線を投げたナイアルの前に、まき巻き苺金髪が躍った。



「ばーん、じいいっっっ」



 勢いよく跳躍したアンリが、空中にてがっちり子どもの体を抱きつかまえる!


 しかし待て、お前は泳げたのだっけ料理人!?



「アンリーっっ」



 ナイアルは慌てて船べりから下方をのぞきこむ!


 びーん!


 海面激突その寸前で、料理人の身体は静止した。



「えっ」



 副長が目をこらせば、アンリの胴にはちゃんと縄が巻き付いている。ぐぐっとその縄を視線でたどっていくと、……自分の横で獣人ビセンテが、もう一方の端っこを難なく支えてふんばっていた。



 とん、ととと~ん。


 獣人の引き上げる力、その勢いに乗って、アンリは軽やかに垂直歩行! 船体外側をつたって、あっという間に甲板に帰還した。両腕の中に抱えられた女の子は、きょとーん・ぷよーん、としている。



「リブ! リブ、リブちゃぁぁぁん!」



 丸々した顔を真っ青にして、父親が駆け寄ってきた。ぷよッ。



「リブちゃんて言うの? びっくりしちゃったね、でも大丈夫なんだよねー」



 アンリは女の子に笑いかけた。なぜかそこに、うまいこと差し込んできた陽光が映り込んで、料理人の頬がぴかぴかっとてかり輝く。



「ありがとう! 本当に、ありがとうございますっっ」



 女の子そっくりの、とび色がかったふかふか金髪を風に揺らして、父親が泣き笑いをしている。その風がさらにふわーん、と男の外套裾をはためかせて、裏の深い臙脂えんじ色が見えた。


 ごうん……。


 静かな、落ち着いた振動。


 今度こそ間違いなく、イリー定期航行船はデリアド港に到着した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ