21.ひまわり亭でお手伝い
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“金色のひまわり亭”で、副店長ナイアルから蜜煮の受取伝票や代金小切手を手渡されたアランが城へ行ってしまうと、ミオナは黄金色の花刺繍の入った前掛けをつける。
「そいじゃ今日もな、色々手伝ってもらうぞ」
「はい」
「……っと。その前に、お習字の宿題はぜんぶやってきたか?」
「もちろん!」
「うむ、ミオナに聞く必要はなかったな。そいじゃ、アンリー」
料理人は少女を連れて、蜜蝋の手燭片手に地下の食糧庫に降りる。
「それでは。持ってきてくれたぶんの蜜煮を、いつも通りここの棚に、きちっと並べて置いてね!」
「それから前みたいに、びん詰め棚をふいて、床をきれいにして、つぶし汁の在庫を数えるのよね」
「そうそうそう。終わって上がってくる時に、くるみをひと籠持ってきておくれ」
「はい」
ととと……。玉ねぎ袋を携えて、アンリは段を上がって行った。
いきなり秋の夜みたいなにおいのする暗がりの中に一人で残された少女は、まじめくさった顔で仕事を始める。
「終わりました」
明るい厨房に戻ってみれば、料理人は玉ねぎ皮をむいている所だ。
「ありがとーう! そこの布につぶし汁の在庫数を書きとめたら、次はくるみを割ってくれるかい」
矢継ぎ早に色んなことを頼んでくる。けれどミオナは、アンリのことをきついと思ったことはなかった。
実際彼女は役に立つ。家ではもっと多くのことをこなしているから、苦になんかならない。町に来て、頼まれることがたくさんある、というのがむしろ面白かった。
それに、アンリは下準備以上のところをミオナには手伝わせない。お昼営業の半刻前を切ると、ぺかぺかっと頬をてからせて「ありがとうね! もういいよ!」と言う。
だからミオナは厨房を出て、手の足りていなさそうな所を自分で探す。
客間では、掃除を終えたナイアルとその母と、女将のエリンが卓子の準備をしていた。一番近くにいたナイアルの母が、彼女に気づいて声をかける。
「ミオナちゃん、そこのひまわり花瓶を持って行って、裏で水をかえてきておくれ」
「はい」
銀髪頭をきれいに結い上げ、てっぺんに紅色てがらを飾るおばさんからちゃきちゃきした調子で言われて、ミオナはうなづいた。
客間の隅の小卓子の上で、美しく咲き誇っている大輪のひまわりの花に目を向ける。
初めてこの店に来た時も見たし、手伝いに来るようになってからは毎回ミオナが水を替えている……。おんなし花に見えるが、それにしてはもちが良すぎるように見えた。……いや、店の名前の花なのだし、誰かが時たま買い換えているのだろうとミオナは思い直す。
そちらに足を向けかけると、ナイアル母が思い出したように付け足した。
「そうそう、さっき店長が探していたよ。ここの客間準備はもう終わるところだし、水を替えたら上がって行って、手伝っておやり」




