表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/90

15.スープでバズれ!ひまわり亭

 

・ ・ ・ ・ ・


「だいぶ遅くなっちまったな。今日はもう、昼の営業は諦めるっきゃねえぞ、アンリ」


「しゅん」



 イスタと馬車とはシエ半島へ帰り、“第十三遊撃隊”の四人はようやくテルポシエ市南区・“金色きんのひまわり亭”の前へとたどり着いた。


 既に正午をまわっている。これから急いで鍋をこしらえても、勤め人の昼休み時間内に間に合わない。



「まあ、そのにらねぎ使って、おひいに何かうまいまかないを作ってやれ。母ちゃんも、腹が減ってるだろう……」



 てかりを失った頬をしぼませる料理人をなぐさめる副長の横、ビセンテがひくりと鼻を動かした。



「?」



 でっかい隊長も首をかしげる、……店の前に“営業中”の看板が出ている!?



「あれっ? 何で“営業中”が出てんだ……え?」



 かたん、と玄関扉が開いて、中年の男女が出て来た。うち男性は、ナイアルの見知った近所の会計事務所長……。



「おや、こんちは。今日もごちそうになりましたよ」


「ごちそうさま!」



 奥さんともどもにこやかに言って、歩き去る……。



「まいど、ごひいきに~……」



 ナイアルの声に合わせ、同時同角度同方向、身長ひくい順に並んだまま頭を下げた四人は、わけがわからずにいる。



「俺、何もつくってないのに……。ごちそうさまって、何なのです? ナイアルさん??」


「……お姫が、何かしたのか……??」



 途端に、四人は厨房裏口に走り込んだ。扉を開けた“第十三”は、ナイアル母とエリンが白い前掛けをつけ、卓子上で何やらまめまめしく作業にいそしんでいるのを目にする。



「ああっ! 帰って来たのね、お帰りなさい!」



 ぱあっと笑顔を輝かして、エリンが言った。



「な……何してんだ……?」


「勝手にやらしてもらったよ」



 ナイアル母が、息子とおんなし顔でにやりと不敵に笑う。手にした丸盆の上には、手のひら大の陶器鉢。乳色の液体が、ほかほか湯気を放っている……!



「昨日の夕方、ひどくお腹をすかしたお客様が来て下すったのよ。あんまりお気の毒だったから、ナイアル君のお母さまが機転を利かせて、保存用にしていたうさぎのつぶし汁を温めて差し上げたら、お気に召したみたいで」


「あ! 先週作っておいた、あれですかッ!?」



 たくさん余ってしまったうさぎ鍋が惜しくて、かぶと一緒に煮つぶしたのを壺に詰め、煮沸して地下倉庫に置いておいたのだ。



「こうして、牛酪(※)付きふすま黒ぱんを添えて出せば、なかなかおつ・・だよ。どうも今朝はあの旦那さん、事務所や倉庫でうまかったと触れ回ってくれたようだね……ごらんよ、皆」



 厨房の端、長台の後ろから客間をのぞいてみれば。



「あああッ、女性のお客さまが……すごッ、六組もいらっしゃるぅぅぅ!?」


「お昼を軽く食べたいっていう女の人に、うってつけみたい」



 空の盆を持って厨房に入って来たリリエルも、おじそっくりの顔でふふと笑う。



「ぬおおお、ちっと待ってろ! 今すぐ着替えて、俺も給仕をするぞぉぉぉッ」


「お、俺も手を洗ってー! このねぎ刻んで、つぶし汁の上に散らしますからぁッッ」



 騒がしく立ち回り始める、副店長ナイアルと料理人アンリのかたわら。店長ダンと獣人ビセンテは、長台の後ろに並んで突っ立っている。


 客間の壁際すみっこ席、陶器鉢の中身をうれしそうに口に運ぶ一人の女性の姿をみとめて、ダンは両方の口角をちょこっと上げた。笑っているらしい、こわい。


 同じ女性を見てとって、ビセンテは眉間のしわを解いた。朝の仕事を終えた揉み療治師の母が、自分を待たずにちゃんとうまいものを食っていると知って、安堵したのである。


 きゅぱっ!


 ナイアルの前掛けとアンリの料理人上衣。どちらも真っ白生地の胸部分に、小さな金色のひまわり刺繍が輝いているのを、勢いよく着つける音。



「“金色きんのひまわり亭”!! 営業中じゃあああ」


「ういいいいいいッッ!!」




・・・・・・・・・・


※牛酪:そちらの世界で言うところのバターです。私は断然、塩入りがいいですね。我がマグ・イーレ特産のあら塩を使ったものが逸品なのでおすすめ…は? ここで宣伝をしてはならぬと? 失礼いたしました。(注・ササタベーナ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ