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赤鬼の娘  作者: Yuri
第一章 鷹山と薬屋
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第7話 親子の会話

「親子の会話に口を出して悪いが」


 茜はそう言って、会話に割って入った。


「もしかして、時子は息子にここのことを話していないのか?」


「山小屋のこと?」


 不思議そうな顔で答える時子に対し、茜は眉をひそめた。


「そうじゃない。鷹山ようざんのこととか、葵堂と妖老仙鬼ようろうせんきの関りとか」

「鷹山と無透むとうさんのこと?」


 話しが通じない時子に、茜は苛立って、がしがしと頭を掻く。


「だーかーらー! この山にはあたしたちみたいな鬼や妖怪が住んでいて、鷹山と葵堂に関りがある関係で、妖老仙鬼っていう妖怪から薬を譲ってもらっているってことを言ってないのかって聞いてんだ!」


 すると時子は明るい顔をして、「それは知っているもんね」と子どもに言うような軽い口調で息子に同意を求める。


「え」


 充は母のまさかの答えに衝撃を受けたので、落ち着くために深呼吸をしてから、

鷹山ようざんに妖怪が住んでいることは聞いたことはありますけど……父さんにも母さんにも言われたことはないです。それに、妖怪から薬を譲ってもらっているなんて話、初めて聞きました……」

と言った。


 時子は目を瞬かせたのち、「あら、そうだった?」と申し訳なさそうな顔をする。


 彼女は薬屋としては優れているが、それ以外のことになるとちょこちょこ抜けている。よって伝え忘れていたことがあることは、長年一緒に暮らしている充としては想像に難くない。


 しかしこれは重大なことではないか、とも思う。


 それにもかかわらず、薬屋の一員である自分が知らなくて、他人の茜の方が葵堂の事情に詳しいのというのは、のけ者にされたかのようであまりいい気分ではない。


 もしかすると、養子だから話せなかったのだろうかといかと、悪い方向に考えてしまう。


「はい……」


 充は頷いたが、時子はまだ自分が話したと思っているようで聞き直した。


「小さいときに話さなかったかしら?」

「僕の記憶が正しければ、絶対に聞いていません。だから、母さんが鷹山に戸惑うことなく入って行くので、どういうことか分からなくて……」

「ええと、そうねぇ。うーんと、どこから説明しようかしら」


 母はしわのある手を自分の頬に当てる。すると呆れたように茜が言った。


「時子、あたしが説明する」

「いいの?」


 ぱっと明るくなる時子を見て、茜はため息をつく。


「いいも悪いも、時子が話したんじゃ日が暮れちゃうからね」


 すると母はにっこり笑い、ぱんっと両手を胸のあたりで叩き合点する。


「そうね、その通りだわ! 今後のことも考えたらその方がいいと思うし。茜ちゃんにお願いするわ」


(今後のこと?)


 充は内心小首を傾げていたが、深く考える前に母は「じゃあ、その間に私は薬草をみに行ってこようかな」と言い出す。


「は……い? い、今ですか? しかも、この山で……?」


 充はぽかんとした顔で聞くが、その間に彼女はいそいそと草履を履く。


「だって鷹山には珍しい草花が生えているんですもの」

「えっ、ちょっと待っ……!」


 止める充の声は聞こえているはずだが、「茜ちゃん、よろしくね」と言う。


 茜は肩をすくめたのち軽く片手を上げて了解の意を示し、一方の時子はにっこり笑うと楽しそうに外へ出て行ってしまった。


 しかしここは鷹山である。


 充は「もし妖に襲われでもしたらマズい」と、母を止めようと立ち上がると、茜が「時子なら大丈夫だよ。例え鷹山が妖怪の巣窟そうくつだとしても襲われることはない」と笑いながら言う。心配する表情が顔に出ていたらしい。


「本当に?」


 聞き返す充に、茜は頷く。


「時子は特別なんだ。だから大丈夫。この山で何かあることは絶対にないよ」

「でも……」

「あたしの命をかけて誓う。だから安心しろ。それに鷹山と葵堂の話は、あたしから聞いておいた方が良いと思うぞ。相手はあの時子だからな。またいつこの話になるか分からない」

「それは……でも、…………分かった」


 充は後ろ髪を引かれるような思いだったが、茜の言うことも一理あるので頷いた。


「じゃあ、こっちはこっちで話をしようか」


 胡坐あぐらをかいた茜に対し、充はどかしたちゃぶ台を元に戻すと、それをへだてて正座をして向き合う。


「……お願いします」


 自分の家のことを今日初めて会った人に聞くのも変な感じだが、母が放り投げていってしまったので仕方ない。充が軽く頭を下げると、茜は小さく頷き語り始めた。

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