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薬屋葵堂と赤鬼物語  作者: 彩霞
第六章

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第75話 黒い靄

 黒いもやは、己のほうに茜が近づいてきていることを感じているのだろう。向かってくる方向にずるずると体を動かし、靄の広がっている範囲も拡大していく。


(大丈夫だろうか……)


 充が緊張しながら様子を見ていると、炎のようにらめいていた靄が突然集約してとがった針のような形となり、茜に向かって鋭く突いてきた。


「茜!」


 充は思わず声を上げる。茜は充に言われるまでもなく、さらりと靄の攻撃をけるが、攻撃は一度だけにとどまらなかった。

 一度()り出されたあとも茜に対してひっきりなしに攻撃が続く。その上、外れた攻撃のせいで、積もったばかりの雪が空中に巻きあげられ、周囲の視界が一気に悪くなった。

 さらに茜たちがいる方向から、急に強い風が吹き荒れ、舞い上がった雪が充のほうにも向かってくる。


「うわっ!」


 充は咄嗟とっさに茜たちがいるほうに背を向け、雪が目や口に入らないようにした。びゅうっと強い風が背中にぶつかり、その場にとどまるにはどうしてもひざを折って四つんいになるしかなかった。


(何で急に風が……!)


 激しく吹いた風をしばく耐えしのぎ、少し穏やかになったかなと思ったときである。次の瞬間遠くで「逃げろ!」という茜の声が聞こえた。

 充ははっとして、茜たちがいる方向と反対側に走り出そうとしたが、その前に腕を捕まれ振り向かされる。すると目の前には、茜のところにいたはずの黒い靄が目の前にいた。


(まずい……!)


 逃げなくてはならない。

 本能がそう反応しているのに、掴まれた腕から力が抜けて行動に移せない。


「充、逃げろ!」


 靄の後ろから茜の声がする。

 しかしその間にも靄は充の首にまとわりつき、その状態のまま彼をゆっくりと地面から浮かせた。


(つ、強い……!)


 靄が首にまとわる前にかろうじて両手をはさめたので、これ以上()められないように抵抗はしているが、充の首をつかむ力は思ったよりも強い。


(靄なんて『実態のないもの』みたいなのに、どうして者が掴めて、しかもこんなに力があるんだよ……!)


 充が心の中で悪態あくたいをつきつつも、何とか抵抗して靄を首から外そうとするが中々上手くいかない。

 その間にった雪が収まっていくと、それと同時に黒い靄の中にいる人物が姿を現した。充は自分の首を掴んでいる人物を見る。


「さ……ら……!」


 白い髪をした小柄な少女は間違いなく沙羅ではあったが、その目つきはまるで彼女ではなかった。

 充を見つめる瞳はぎらぎらとしており、口元には奇妙な笑みを浮かべている。


(風流が「化け物」と言ったのもよく分かる……。今の沙羅は、まるで目の前の獲物を何の理由もなく殺そうとする者だ……)


「や……めて……く……れ」


 充は懇願こんがんするが、沙羅は「きゃはは」とのどの奥から声を出して笑った。そして彼女は靄を使って、さらに充の首をめようとする。

 充は朦朧もうろうとしてくる意識の中で呟いた。


(沙羅は、人を苦しめたりする子じゃないのに……)


 昨日、正気に戻った沙羅と話したときに、彼女が言った言葉を充は思い出していた。


 —— 茜が可哀かわいそうで、とても申し訳ないからです……。

 —— 『優しい赤鬼と人間の子』だから、私を捨てられないのです……。私を守るなど、苦しいだけでしょうに……。


 何故そう言ったのか、義母ははから茜と沙羅の因縁について聞いてからなら分かる。


(自分の父親を術にはめた男の娘の面倒を見なくてはいけないのは、あまり気分のいいものではないはず……。沙羅はそう思ったから「茜が可哀そう」だと言ったんだ……)


 彼の目からは涙がこぼれる。息苦しさで出てきたものでもあったが、正気の沙羅のことを思い出すと悲しくて仕方がなかった。


(優しい子なのに……、茜を思っているのに……、どうして化け物……『堕突鬼きとつき』になんてなって、人を傷つけようとしているんだろう……)


「充! 無事か!」


 ぼんやりとした意識の中で、茜の声が聞こえる。充はふと右側を見ると、赤い髪をなびかせて走ってくる茜の姿があった。

 だが、こちらに向かって来ようとすると沙羅から出ている黒い靄が邪魔をして、中々近づけさせてくれない。


「今助ける! とにかくえろ! それか桃守香とうしゅこうを沙羅に飲ませてくれ!」


 充は茜の声を聞いてふっと笑う。


(何て無茶苦茶なんだ。両手が靄にはさまって飲ませられる状況じゃないんだよ……)


「あ、かね……」


 自分の首の辺りからみしみしと嫌な音がする。骨が折れるか酸欠で死ぬかは時間の問題だろう。

 義母ははに「絶対帰ってきなさい」と言われていたことが思い出されたが、充は心の中で謝った。


(ちょっと、無理……かも……、義母さん、ごめんなさい……)


 充の意識がなくなりかけたそのときだった。

 彼の胸から、淡い桃色の光がふわりと輝きだしたのである。

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