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赤鬼の娘  作者: Yuri
第一章 鷹山と薬屋
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第4話 妖と言い張る少女

 しかし「少女」とはいっても、人間ではなさそうだった。


 彼女の腰まである長い髪は真っ白で、威嚇いかくする黒い瞳はぎらぎらとしている。眉間と鼻の上には深いしわが現れ、鼻息は荒く、喉の奥からはうなり声を発していた。


「痛いなぁ。お前のために薬屋を連れて来たっていうのに、この乱暴はないだろう」


 外に吹っ飛ばされたはずの茜は、地面の上で胡坐あぐらをかいて笑っている。

 くらったりは相当強かったように見えたが、上手く力を相殺したのか、それとも彼女にとって大した痛みではなかったのか平気なようだ。


 しかし、右腕の傷は大きかったはずである。屈強な男なら分からないが、妙齢の女性が平気で笑っていられるような傷ではないはずだが、やはり彼女は見た目通り人間ではないのだろう。でなければ、大したことのないように振舞えるはずがない。


うるさい! 誰が医者を連れて来いと言った!」


 白髪の少女は、充を指して怒鳴る。彼はギクリとして身構えたが、茜はやれやれといった様子で肩をすくめ、距離があるために少しだけ声を張り上げて言い返した。


「さっき薬屋だと言っただろう。医者じゃない」

「馬鹿、そういうことを言っているんじゃない! 医者も薬屋も要らないと言っているんだ!」


 少女はこぶしを握り、負けじと言い返す。


「半妖の血を飲んで暴れているくせによく言う。もう少ししたら酷い痛みで苦しむことになるぞ」

「そんなことにはならない!」

「薬屋だが治療の知識も心得ている。安心していい」


 茜は少女の言い分を無視して、薬屋の話をする。充はハラハラしながら二人の会話を聞いていた。


「そもそもこいつは人間じゃないか。私は人間と慣れ合う気はない!」


 少女の返事に、茜はあきれたようにため息をつく。


阿呆あほう。お前も人間だろう」

「何を言う! 私はあやかしだ! 妖怪だ! 馬鹿にするのも大概にしろ!」

「その言葉、沙羅にそっくりそのまま返すよ」


 そう言うと茜はゆっくりと立ち上がって、着物に付いた砂埃を払い、充の方を見てにこりと笑う。


「こんな調子なんだけど、診てもらえるだろうか?」


 ということは、この少女が患者ということだろう。どこが悪いのかは分からないが、充は反射的に断っていた。


「……ば、馬鹿!……無茶言うな! 無理に決まっているだろう! それに、とっても元気みたいだし!」


 充が返事をすると白髪の少女が、「茜、こっちを無視をするな!」と言う。しかし茜は少女の言葉に耳を貸さず充に話し続け、歩いてこちらとの距離を縮めていた。


「今は元気だけどね、この後全身が酷く痛み出すはずなんだ」


 充は、隣にある危険にちらちらと視線を向けながら反論した。


「痛みって言ったって……。鎮痛薬はあるけど妖怪にくか分からないし……」

「だから違うって。この子は人間。妖怪じゃないの。それと葵堂の薬はちゃんと効くから大丈夫」


 呆れながら答える茜に対し、答えたのは少女だった。


「私はあやかしだ!」

「って、本人は言っているし……。見た目だって人じゃないだろう。歯が鋭利だし――」


 すると充から見て右隣に立っていた少女は、ぐるりと首を回し彼を見てにたりと笑うと、ぐわっと口を開けて噛みつこうとした。


「う、うわっ!」


 咄嗟とっさに右腕を引っ込めてよける。その様子が滑稽こっけいだったのだろう。少女は楽しそうに笑い彼に尋ねた。


「私はどこからどう見ても妖だろう?」


 少女の問いに、充は躊躇ためらいつつも素直に答えた。


「正直、人間には見えないよ……」

「どうだ茜。こいつもそう言っているぞ!」


 少女は喜々として言う。嬉しいようだ。だが、茜は充たちの会話を無視し、先程の話を続けた。


「まぁ、色々あって半分化けてはいるけど、沙羅の体はちゃんと人間なんだよ」

「ちゃんと人間って何だよ……」

「だから人間なんだって。もう一度よく見てみな」

「って言われても……」


 充は恐る恐る、再び少女をちらりと見やる。何度見たところで、妖怪だろうに――。


「え?」


 だが少女の体を見ていると、どうも様子おかしい。先ほどの笑みは消え、顔色は青ざめている。さらに何かに耐えるような苦しい表情を浮かべていた。


「お、おい。今度はどうした?」


 すると少女の色白の肌から大量の汗が噴き出す。


(何が起こっているんだ?)


「派手に暴れるからだ」


 茜が淡々と言い、少女の真ん前に立ちはだかる。少女の身長は、彼女の胸のあたりくらいしかないので、彼女は茜をうらめしそうに見上げた。


 どれくらいそうしていただろうか。


 少女は苦しそうにしながらも、しばらく茜をにらみつけていた。息は荒くなり、腹が痛むのかその辺りの着物をぎゅっと握りしめている。


 だが、その体で耐えられる時間というものがある。次の瞬間、唐突に少女はひざからくずれ落ちた。

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