表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薬屋葵堂と赤鬼物語  作者: 彩霞
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/93

第56話 修たちの祈り

「手掛かりがない……?」


 桜は空から視線を充に向けた。

 彼の緑色の瞳は、充に優しく微笑ほほみを向けていたが、その奥にはさびしさのようなものが浮かんでいる。


「そう」


「では、その方を助けることができないということですか……?」


 充は神妙しんみょう面持おももちで尋ねた。

 手掛かりがないということは、どこにいるか分からないということである。

 当てずっぽうに探すにしても、どれくらいの時間がかかるか分からない。時間がかかれば、囚われた友人が助かるかどうかも難しくなってくるだろう。


「今はまだ……ね」


 桜は静かに呟くと、笑顔を作って「足を止めてすまない。歩こう」と言い、再び歩き始めた。これ以上その友人の話をするつもりはないのだろう。

 桜の心境を考えると踏み込んで尋ねるべきではないと考え、充も何も言わずに彼の歩みに合わせてついて行った。


「暗い話をしてしまったな。それより久しぶりに充と会ったんだ。充の話が聞きたい」


 しばらく進み道が平らに近くなってきたところで、隣を歩きながら桜が言う。充は少し驚きながら、彼を見た。

 

「え? でも、僕の話なんて特に面白くないと思います……」


「そんなことはない。六年も会っていなかったんだ。話すことは色々あるだろう。——そういえば、葵堂の生活には慣れたか?」


 優しく尋ねる彼に、充はゆっくりと視線を足元に移す。


「少しは慣れましたけど……。でも、桜が面白いと思うような話なんて……。だって、僕は役に立っているかよく分からないし……」


 すると桜が優しい声でこんなことを言った。


「さっき桃菓糖とうかとうの話をしただろう。お祝いのために持ってきたものだが、あのお菓子を頼んだのはおさむと時子、そして類なんだよ」


 充はその言葉にはっとする。再び顔を上げ桜を見ると、彼はほがらかな笑みを浮かべていた。


「え……?」


「『お祝いをするから何がいい?』っていったら、『お菓子にしてほしい』って。養子にもらったのはいいけど、その子がずっと気を張っているから、それがほぐれるようなお菓子を買ってきてもらいたいと言われたんだ」


「……」


「お菓子にはいくつか候補があった。そのなかで桃菓糖が選ばれたのには訳がある。分かるかい?」


「……分かりません」


 充はふるふると首を横に振る。

 小豆の入った饅頭まんじゅう大福だいふくなら、お腹の調子を整えてくれるとは聞いたことがある。だが、それ以外の菓子は桃菓糖以外思い浮かばない。高価なものなので、世間にどういうお菓子があるのか充はよく知らないのだ。


「『悪しきものを充に近づけないように』。そして『桃の気が充を守ってくれますように』という祈りが込められている」


 桜が白い息をはき、そらんじるかのように言う。

 充はその意味が分かると、ゆっくりと目を見開き立ち止まった。


「祈り……?」


 少し先に進んでいた桜は、背中に声をかけられて振り返り、充を見上げる。

 桜色の髪がさわさわと冷たい風にれていた。


「そうだよ。桃には邪気払いの効果があると言われていて、悪いものを寄せ付けないといわれているんだ。……私は簡単にだが、充が葵堂に来た経緯けいいを聞いた。修たちは『ミツ』の父親に『充』をうばわれないように、もしくは手出しができないようにしたかったのだろうと思う」


 充の目頭はだんだんと熱くなり、自分の視界がうるんでくる。

 ずっと外にいたために冷え切ったほほには、ぽろりとこぼれたしずくは熱い。一瞬にしてその雫は大気に熱を奪われ冷たくなるが、その間にも次々と涙が頬を伝っていくので、充の頬は熱いものと冷たいものがざっているかのようになっていた。


「……」


 桜はゆっくりと充に近づくと、そっと彼の頬に触れ、涙を指でぬぐった。

 冷たいような温かいような桜の指は、つるりとしていて、充の頬をすっとすべっていく。そして幼い子に言うように、ゆったりとした口調でこう言った。


「充。時子は言葉足らずだし、修は旅に出てからしばらく帰って来ないし、類も傍にいなかったから心細く思うのも当然だろう。自分が葵堂にとって必要かどうかも気になっていたかもしれない。でも、大丈夫。彼らは充のことを大切に思っている。つかんだ手を離すことはないから安心しなさい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ