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薬屋葵堂と赤鬼物語  作者: 彩霞
第四章

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第52話 天つ日からの伝言

 銀星の呟きに、時子は目をせる。


「邪気は人の体に触れたりしたくらいでは何も起こらないけれど、沙羅ちゃんの場合は確実に付いてしまっている……、というより、体に取り込まれてしまっているといったほうがいいのかもしれないわね。もちろん『邪気』という根源をはらうことはできるけれど、それは『浄化の術』を使える人でないとできない。でも、この辺りにそれができる人を聞いたことがないから、お天道さまは桜ちゃんが沙羅ちゃんを鷹山ようざんに連れてきたときから考えていたんでしょうね。彼女の体の中にある邪気が顔をだした際ある程度堪えうる体にするために、銀ちゃんの血を飲ませたのよ」


 沙羅が鷹山に来たのは、今から半年前のこと。


 その数日後あたりに、銀星はあま天狐てんこの両者から、彼女の様子を遠くから見守るようにと言われていた。

 当然、疑問はあった。

 彼女の面倒はすでに茜が甲斐甲斐かいがいしくしており、自分が見る必要がどこにあるのだろうと思っていたのだ。


 それから数か月が経ち、ふた月ほど前、今度は天つ日に「沙羅にそなたの血を与えよ」と唐突とうとつに言われたのである。


 天つ日に理由を聞けなかった銀星は、沙羅に血を得たい理由を聞くと「茜に頼ることないほど強くなりたい」という。実際沙羅は鷹山で異端な者として扱われており、その上「人間」という一番弱い存在であったため、茜に守られなければいじめられている状態だった。


 しかし、銀星はずっと疑問に思っていたのである。


 銀星の血を飲んだところで、沙羅は強くはならない。

 それは天つ日も分かっていたはずである。


 半分は人間、半分は妖怪の血を受け継ぐ銀星のそれは、妖怪よりも多少弱いかもしれない。

 だが、人が飲めば妖気の強さに対応しようとして、間違いなく苦しむことになる。

 銀星の予想通り、彼の血を飲んだ沙羅の体はその妖気にえられず、暴走した。このままにしては置けないからと、茜は葵堂に向かい、時子に助けを求めた。

 そして葵堂が持っている妖老仙鬼ようろうせんきが作った水薬を与えることで、沙羅の中にある銀星の妖力を暴れる度に抑えてきたのだ。


 これにどんな意味があるのだろうと銀星は疑問に思っていたが、「邪道」の一連の話を聞いて合点がいった。


 銀星の血を飲んだ沙羅の中には、「邪気」と「銀星の妖気」という、沙羅以外の二つの「気」が存在している。

 仮に「邪気」だけであれば沙羅はすぐにそれに負けてしまったであろうが、「銀星の妖気」に沙羅の体が耐えようとすることで、「邪気」に簡単に負けないようになる。人が一度風邪をひくとかかりにくくなるのと同じような仕組みだ。「妖気」という強い「気」に耐性が付くことにより、「邪気」にも耐えられるようにしたのだろう。


 だが、銀星には再び疑問が浮かんだ。


(そうなると、天つ日の伝言はどういう意味になるんだ……?)


 銀星は、時子をちらと見る。

 彼女は「どうしたの?」と尋ねた。彼の表情から何かを感じ取ったらしい。


「時子、俺がここに来た理由を忘れてはいないな?」


 銀星が葵堂へ来たのは、元々天つ日から言われていた伝言を時子に伝えに来たのである。

 すると時子は「ええ」と短くうなずき次のように尋ねた。


「お天道さまは何て?」


「……沙羅は茜と戦うことになる、と」


「沙羅ちゃんと茜ちゃんが戦うことになる?」


 時子は静かに聞き返すと、考え込むようにあごに手を当てて考え出した。


「どういうことかしら?」


 銀星になのか、それともただそう発したのか分からないが、時子は疑問をくうに投げる。

 しかし天つ日の伝言の意味が分からないのは、銀星も同じだった。


「分からない。ただ、今、沙羅は一時的に落ち着いている。だから伝言を預かったとき、俺は再び沙羅の中にある俺の妖気によって再び暴れ出すんじゃないかと思っていたんだ。だが、時子と天狐から聞いたって沙羅と茜の事情を知ったら、天つ日が何故そんな伝言を時子にして来いと俺に命令したのか分からなくなった」


 ここまでの話で沙羅と茜が、以前住んでいた村の村長と、茜の父親である絳祐こうゆうを介して繋がりがあることが分かった。

 しかしだからこそ、天つ日に持たされた伝言がどんな意味になるのか、銀星には分からなくなってしまったのである。


「もしかすると、沙羅は邪気に飲まれるということなのか?」


 銀星が尋ねる。だが時子は小さく首を横に振った。


「その情報だけでは分からないわね。でもお天道さまは、余計なことは言わない方よ。わざわざ私に知らせたということは、何かがある……」


「何か……?」


 銀星は呟いてから、はっとする。


「——充?」


 血のつながっていない息子の名に、時子はわずかにまゆを動かす。そして、「充、ね……」と口の中で小さく呟くと、考える仕草をしたまま静かに目をつむるのだった。

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