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薬屋葵堂と赤鬼物語  作者: 彩霞
第一章

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第3話 少女

(怒りが収まった……?)


 すると静かな空間に、茜のりんとした声が響く。


「——沙羅」

 

 茜が再びその名を呼んだ瞬間、小屋の奥から「ぐわぁ!」という叫び声と共に、恐ろしい速度で何かがとびかかってきた。


「うわっ!」


 充は咄嗟とっさに両腕で体を守るような体勢を取ったが、「ガッ」という衝撃音が聞こえる。


(まれた⁉)


 そう思ったが、一向に痛みが来ない。怖がりながらもそっと目を開けてみると、目の前には、いつの間にか充と同じくらいの身長まで伸びた茜の背があった。


「な、何……⁉」


 充はわなわなと震える声で呟く。何がどうなっているのだろうか。

 だが状況を確認しようにも、見えるのは茜の背だけでそれ以外は分からない。


 するとそのとき、ポタポタと何かがしたたる音がする。目線を下へ向けると、引戸から入ってくる陽光に照らされていたのは鮮血だった。


 彼女は宣言通り充の盾となり、かばったのだ。

 しかし「もしこれが自分だったら」と思うと、さぁっと全身の血の気が引いていく感じがする。


「沙羅。まさか、あたしの血まで飲む気か? 死ぬぞ」


 一方の茜は自分の腕が噛まれているというのに、噛んでいる相手に軽い口調で意味の分からないことを言う。


「あ、あかね……?」


 やっとのことで名を呼ぶと、彼女はちらりとこちらを振り向き、淡々とした様子で「無事だな」と言うと深紅しんくの瞳を細めた。こんな状況であるのに、彼女は笑っている。


「危ないから、そのままあたしの後ろに隠れてな」


 そう言って、茜は次の行動にさっと移る。自分の右腕に噛みついている相手を振り払うように、腕を小屋の奥に向かって思い切り振るったのだ。


「ぐわっ!」


 強い遠心力で振り飛ばされた相手は派手にぶつかったようで、壁が破壊される音とともに木の破片や砂埃すなぼこりが舞い上がる。


「だ、大丈夫、なの?」


 充は腕から血を流している茜と、噛みついていた相手が飛んで行った方向を交互に見ながら尋ねた。


「来るよ。下がってな」


 茜は彼の質問に答えることなく、腰を屈めて戦闘態勢に入る。その瞬間、奥に吹っ飛ばされた相手が、再び驚くような速度で茜との間合いを詰め、今度は鋭い爪でひっかいた。


 だが茜はそれを上手くかわす。そのため爪はくうを裂いたが、相手はその勢いのまま床に両手を付いて倒立の状態になった瞬間に、腕をばねのように使い、茜に向かってりを入れた。


「ちっ!」


 茜は避けることができなかったのか、その蹴りを受けて体勢を崩してしまう。その隙に相手は再び強い足蹴を繰り出し、引戸ごと外へ吹っ飛ばされてしまった。すさまじい強さである。


「あ、茜!」


 充は心配になって叫んだが、その瞬間自分の隣に恐ろしい「何か」が立ったのを感じ全身を悪寒が襲う。そっと気配のする方に目を向けると、引戸がなくなって外の明かりが室内に入ったお陰で、「何か」の姿があらわになった。


「え……?」


 充は、茜と対峙していた者を目にして絶句した。その者は、まだ年端としはのいかぬ少女だったのである。


 しかし「少女」とはいっても、人間ではなさそうだった。


 彼女の腰まである長い髪は真っ白で、威嚇いかくする黒い瞳はぎらぎらとしている。眉間みけんと鼻の上には深いしわが現れ、鼻息は荒く、のどの奥からはうなり声を発していた。


「痛いなぁ。お前のために薬屋を連れて来たっていうのに、この乱暴はないだろう」


 外に吹っ飛ばされたはずの茜は、地面の上で胡坐あぐらをかいて笑っている。

 くらった蹴りは相当強かったように見えたが、上手く力を相殺したのか、それとも彼女にとって大した痛みではなかったのか平気なようだ。


 しかし、右腕の傷は大きかったはずであるが、やはり彼女は見た目通り人間ではないのだろう。でなければ、大したことのないように振舞えるはずがない。


うるさい! 誰が医者を連れて来いと言った!」


 白髪の少女は、充を指をさして怒鳴る。彼はギクリとして身構えたが、茜はやれやれといった様子で肩をすくめ、距離があるために少しだけ声を張り上げて言い返した。


「さっき薬屋だと言っただろう。医者じゃない」


「馬鹿、そういうことを言っているんじゃない! 医者も薬屋も要らないと言っているんだ!」


 少女はこぶしを握り、負けじと言い返す。


「半妖の血を飲んで暴れているくせによく言う。もう少ししたらひどい痛みで苦しむことになるぞ」


「そんなことにはならない!」


「薬屋だが治療の知識も心得ている。安心していい」


 茜は少女の言い分を無視して、薬屋の話をする。充はハラハラしながら二人の会話を聞いていた。


「そもそもそいつは人間じゃないか。私は人間と慣れ合う気はない!」


 少女の返事に、茜は呆れたようにため息をつく。


阿呆あほう。お前も人間だろう」


「何を言う! 私はあやかしだ! 妖怪だ! 馬鹿にするのも大概にしろ!」


「その言葉、沙羅にそっくりそのまま返すよ」


 そう言うと茜はゆっくりと立ち上がって、着物に付いた砂埃を払い、充の方を見てにこりと笑う。


「こんな調子なんだけど、診てもらえるだろうか?」


 ということは、この少女が患者ということだろう。どこが悪いのかは分からないが、充は反射的に断っていた。

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