第47話 「陰陽術」から派生した「陰術」と「陽術」
「祖父に『あまり言わないように』と言われていたし、祖父が亡くなってからは子育てと仕事で忙しくしていたこともあって、特に話す機会がなかっただけよ。そういう銀ちゃんは、『邪道』のことはどれくらい知っている?」
銀星が驚いているのを、時子は微笑ましく眺めながら尋ねた。
「『陰陽術』の中でも、特にろくでもない連中の集まりとは聞いていた。だが、時子のお祖父さんの話を聞く限り、彼らの中でも問題になっていたということなのか?」
時子は一旦湯飲みに入った煎茶を啜り、ほうっと息をついたあと、「それを話すには簡単に『陰陽術』の歴史について話さないといけないわ」と言った。
「歴史?」
時子はそっと茶碗を座卓に戻し、静かにうなずく。
「ええ。祖父から聞いた話でよければ、話してあげられるけれど。聞く? ただし、『陰陽術』の話だからね。銀ちゃんにとっていい話かどうかは分からないわよ」
「陰陽術」の歴史は、端的にいって人と妖の戦いの歴史である。
半分妖の血を引く銀星にとって楽しい話にはならないだろうと思い、気を使ってくれたのだろう。さすがの時子でも、幼少期から鷹山と村の間に住んでいるためか、妖と人との間にある微妙な立ち位置のようなものは分かっているようである。そのため「銀星にとっていい話かは分からない」と言ったのだろう。
(時子の気遣いは有難い。だが、今後茜と沙羅のことを考える上で必要な情報があるかもしれない……)
そう思うと、銀星は迷わずにうなずいた。
「聞かせてほしい」
すると時子はふっと目元を和らげて「そう言うと思ったわ」と言って、「陰陽術」の歴史について語り始めた。
「まず『陰陽術』が生まれたのは今から四百年くらい前のことなの。妖との共存が上手くできなかった人間にとって、その力は特に上流階級の人々の生活にとって欠かせないものとなったわ。そこから少しずつ市民にも浸透していったんだけれど、当時の『陰陽術』は封印しかできなかったのね。封印の力は時が経つにつれて弱まると何が起きるか分かる?」
「封印が解けて、封印されていた妖が解放されるだろうな」
時子の静かな問いに、銀星は感情の籠らない声で答える。
「そうなの。だから人々は次に、妖を滅しようと考えるようになった」
「なるほどな。そうすれば、二度と封印が弱まることを心配する必要がなくなるということか」
妖を滅することができれば、封印をしなくて済む。
封印をしなくてよいということは、封印が解かれ、再び妖が解放される心配や、封印のし直しを考えなくてよいということだ。
「そういうこと。それでね、『陰陽術』を扱う者たちを『陰陽師』というんだけれど、彼らは日夜妖を滅するための方法を模索していた。そして彼らはついにその術を生み出したの。でもね、陰陽師の中には、滅する術を使わないほうがいいと考えていた者たちも沢山いたわ。妖を滅することが本当にいいのだろうか、と」
「どうなったんだ?」
「『陰陽術』が生まれてから二百年くらい経ったあたりで、二つの派閥に分かれたの。それが『陰術』と『陽術』」
「『陰術』と『陽術』か……。その名前は聞いたことがあったが、経緯は知らなかったな……」
銀星はつるりとした顎を撫で、しみじみと呟く。一方の時子は小さくため息をついた。
「経緯を知っているのは関係者くらいなものよ。彼らは自尊心が強いし、自分たちの仕事に誇りを持っていたから、内輪揉めしていることを知られることすら知られたくなかったみたい」
「なるほどな」
「それでね、『陰術』がこれまで通り封印に重きを置く者たち、『陽術』が妖を滅することに重きを置く者たち……というふうに分かれて活動することになった。だけどね、世の中は妖を滅することを良しとしていたものだから、『陽術』の者たちに仕事の依頼は入っても、『陰術』の者たちには中々仕事が入らなかった。旭村のように小さい村だと『陰術』と『陽術』の違いなんて分からないでしょうけど、お金持ちの人たちは情報を得るのも早かったから、特に『陽術』を選んでいたようね。だけどここで問題が起きてしまった」
時子の最後の言葉に、銀星は何が問題だったのかすぐに分かってしまった。
「つまり、『陰術』の仕事が減ったってことだな。人は金がないと生きていけない……」
「陽術」だけに仕事が偏ったということは、「陰術」の者たちには仕事が来なくなったことを意味する。そうなれば「陰術」のほうに必然的に金が入って来なくなり、生活がままならなくなってくる。
時子は銀星の言葉にうなずくと、話を続けた。
「そこで『陰術』の者たちの中で、妖を滅する術を作った者がいた。どういう術かというと、それは元々『陰術』の中にあった術を改良したもの。『操る墨』と書いて、『操墨』というのがその術」




