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薬屋葵堂と赤鬼物語  作者: 彩霞
第三章

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第45話 見方

「うん」


 充はうなずくと、一言だけ付け加えた。


「僕にとってはよかったと思うよ」


 意味深長な言い方に、風流は小首をかしげる。


「どういうこと?」


 尋ねられ、彼は苦笑する。


「もちろん前の暮らしから比べたらご飯も沢山食べられるし、日々は充実していると思う。でも、葵堂の役に立っているのかなとか、本当に信頼してもらえているかなって……そこがちょっと気がかりなんだよ」


 義母ははを始め、義父ちち義兄あにも充に「鷹山」と「葵堂」との関係はこれまで教えてくれたことがなかった。


 その上、沙羅のために使用している「水薬」という特殊な薬のことを知らなければ、それが妖怪が作った薬であることすら知らなかったのである。


 茜は「時子はそういうところがある」とは言っていたが、充は未だにに落ちないでいた。義母が話さなかったのは、自分が信頼されていなかったからではないか、もしくは頼りなかったからではないかと。

 すると風流がこんなことを言った。


「大切な人にほど、『信頼されていたい』って思いたくなる気持ちは分かるな」


「本当?」


 聞き返す充に、風流は「うん」とうなずいた。


「私も茜に対してそうだもの。でも、私が茜のことを大切に思っていても、相手が私に対して同じくらいに思っているとは限らないわよね」


 哀愁あいしゅう漂う言い方に、充は思わず眉をきゅっと寄せる。


「風流……」


「そんな顔しないで。大丈夫だから」


「……」


「もちろん、沙羅のことは整理はついていないし、いまだに『どうして茜があの子のことを面倒見ないといけないの?』って納得できないことがあるけど、ちょっとあきめているところもあるの。私は茜を困らせたいわけじゃないから」


「……相手のことを思って、身を引くってこと?」


 おずおずと尋ねた充に対し、風流は上のほうをあおぎ、ふうと息を長くはいてから答えた。


「そこまで大袈裟おおげさなことじゃないわ。上手く言えないけど……沙羅の存在を私なりに認めるしかないかなって。それが茜との関係を続けていく上で必要なことかなって思うの。だって、茜が沙羅のことを大切にしているのに、それを傷つけては茜に嫌われてしまうでしょう? 私は沙羅のことが好かないけれど、茜が大切にしているから見守ることにしたのよ」


「そっか。風流は大人だな」


「そんなことはないわ。だから充も、私が自分だけのことから、茜のことを考えてみたように、あなたから見た葵堂のことじゃなくて、時子たちから見た葵堂と充のことを考えてみたらいいんじゃないかしら……ってそれを言いたかったの」


 風流の提案に、充は目をしばたたかせつつ聞き返した。


義母かあさんから見た、葵堂と僕のこと?」


「そう。私が思うに、時子は充に葵堂の役に立ってほしいって思っているわけじゃないと思うわ」


 彼女の言葉に、充は顔をうつむけた。

 役立ってほしいと思われいないなら、自分の存在は何なのだろうか。


「それってつまり、葵堂にとって僕のことがいらないってこと?」


 膝の上でぎゅっと拳を握りしめて聞き返す。

 すると風流は「まだ充からの見方しかできていないわね」と言って苦笑した。

 そのとき充は、ふとあることを思い出す。


(そういえば、茜もそんなことを言っていたな……)


 鷹山に初めて登った日のこと。

 充が「義母かあさんたちのことをよく知っている」というようなことを言うと、茜は「そんなことはない。ただ、充と見ているところと、あたしが見ているところが違うんだよ」と言っていた。


「それ、茜にも言われたんだ。初めて会ったときにね。でも、よく分からなくて……どういうことだか分かる?」


 そっと顔を上げて聞くと、風流は不思議と柔らかい笑みを浮かべていた。


「茜にも言われたの? それならそろそろ分かるんじゃない?」


 簡単なことよ、と言わんばかりの彼女に、充は小さくため息をつく。


「分からないから聞いているんじゃないか」


 それに対し、風流は小首を傾げて不思議そうに彼を見た。


「そう? でも、今の充なら大丈夫だと思うのよね。私とこうやって話ができたんだもの。きっと時子の気持ちも分かるはず」


「……そうかな?」


 半信半疑の充に、風流は優しく笑う。


「そうよ」


 充は「そうかな……」と呟きながら、冷めてしまった白湯さゆをごくりと飲むのだった。

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