第24話 問い
「良かったら、こちらに座っていただけないでしょうか?」
「え?」
「お話したいです。ここだと寒いかもしれませんが」
遠慮がちに言う彼女に、充は「中には入らないの?」と尋ねる。
すると沙羅は首をふるふると横に振った。
「私一人では入れないのです」
彼女の言葉に、充は納得する。
(そうか。沙羅はほかの半妖たちとの折り合いが悪いんだった)
「だったら、僕と一緒ならいいんじゃない?」
自分と共に入れば問題ないと思ったが、沙羅は再び首を横に振った。
「それですと、後で充さんが風流さんに叱られるかもしれないから……」
そんなことないとは思うのだが、沙羅の顔を見る限り、充がどうとかという問題よりも、沙羅は茜と一緒のとき以外は山小屋に入ってはいけないと思っているのかもしれないと思った。
「分かった。ここで話を聞くよ」
沙羅の気持ちを汲み取って、ここにいることを了承する。
彼女は初めて小さな笑みを浮かべ、お礼を言った。
「ありがとうございます」
「そんな……お礼を言われるほどのことじゃないよ」
沙羅の一挙一投足に、まるで小さな花が懸命に咲いたときのような感動があり、充は思わず泣きそうになってしまう。
(きっとこれが『血が馴染む』ってことなんだ。頬に赤い痣も出ていないし、顔も穏やかそのものだ。もしかして、血が馴染むと、沙羅の見た目も元の姿に戻るのかな? 髪と爪はまだみたいだからもう少しかかるんだろうか。そうだ、怪我のほうはどうだろう。前回は思ったほど大きな怪我はなかったから、擦り傷の手当てだけはしたけど、まだ治ってはいないよね……? でも、何よりも普通に話せるようになって、本当に良かった……!)
充はほっとすると、背負っていた薬箱を傍に置き縁側に座った。
笠は被りっぱなしはよくないだろうと思って外したが、雪避け用のわら蓑は、寒さを凌ぐため着たままにする。
充が座ったあとに、「失礼します」と言って沙羅が隣に腰を下ろした。
「何を話そうか?」
すると沙羅は充のほうに体を向け、頭を下げる。
「その前に謝らせてください。長い間ご迷惑をお掛けいたしまして、大変申し訳ありません。また、幾度となく助けていただいたにも拘わらず、失礼な態度を取り続けたことも誠に申し訳ございません」
充はすぐに日々の出来事について謝ったのだと思った。
しかし、それよりも気になったことがある。彼女の一つひとつの言葉と、充に対する態度のことだ。
沙羅の年齢はよく分からないが、見た目は大体十二、三歳くらいである。それくらいの子が礼儀作法や言葉遣いがきちんとしているのは、優れた教育を施すことのできる家でなければ難しい。
(沙羅って、もしかして良いところの子ども……? でも、それだったらなおのこと、どうしてこんなところにいるんだろう? 茜は『親に捨てられたって聞いた』って言ってたけど、ここまで教育をされていたってことは、僕の生まれた家みたいに貧乏だったわけではないだろうし、捨てる理由なんてある?)
どういうことだろうかと考えていると、沙羅がそろそろと頭を上げ、不安げな顔を充に向けた。
「充さん……?」
名を呼ばれてはっとする。
「あ、ごめんっ、いや、それはいいんだけど……、覚えているの?」
暴れまわる沙羅に、正気の部分があったとは思ったため尋ねると、彼女は静かに答える。
「途切れ、途切れですが……」
「そうなんだ」
「はい……。ですが、充さんの手当てのお陰で、傷も酷くならずに済んでおります。ありがとうございます」
「それは茜が一生懸命だからだよ。僕はそれを手伝っているだけだ」
「でも、手当てをしていただいたのは確かですから、お礼を申し上げたかったのです」
「そっか」
「はい……」
「……」
それきり暫しの沈黙が訪れる。
「話をしたい」と言ったものの、どう切り出せばいいのか分からないでいるのかもしれない。
充は堪らなくなって、ずっと疑問に思っていたことを尋ねていた。
「……ねえ、沙羅。どうして半妖の血を飲んだの? もしかして飲まされた、とか?」
答えてくれるだろうか。
緊張しつつ待っていると、沙羅は首を横に振った。
「違います。私が望んだんです」
はっきりとした回答に、彼女は「半妖の血を飲んだ話」について答える気があると彼は思った。さらに質問を重ねる。
「じゃあ、銀星に『血が欲しい』と頼んだの?」
沙羅はもう一度首を横に振った。
「いいえ」
「じゃあ、君は誰の血を飲んだんだ?」
充はきゅっと眉を寄せる。
銀星に似た姿をしてきているのに、どういうことだろうと思っていると、沙羅が丁寧に事情を説明した。
「すみません、私の答え方が少々分かりにくかったようです。充さんがお察しの通り、私が飲んだ半妖の血は銀星さんのものです。ですがお頼みしたのは、銀星さんではなく、お天道さまです」




