2/69
はじまり
——鷹山。
それは木々が生い茂る、旭村から一番目に近い山の名である。しかし村人のなかに足を踏み入れる者はいない。鷹山には、妖怪や鬼が住んでいると言い伝えられているからだ。
稀に「度胸試し」といって入山する若者もいるが、大抵は骨を折るなど大怪我をしてくるか、最悪帰ってこない。その話を小さい頃から聞かされたり目にしていれば、阿呆でない限り、大人になっても鷹山に入るどころか、近づくことすらしない。
そして充も、村の大人たちに言い聞かされていたのだが、事情があって秋晴れの空の下、妖が住むというその山を登っていた——。