8 ナイトメア *良平*
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朝だというのに暗い森の中。うっそうと生い茂る黒い木々の中の細い道。前を逃げていく白い影がぜいぜいと苦しそうな息を吐きながら逃げていく。
その白い影に追いつき腕を伸ばし、自分の手を影の首に……。
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がばぁっ。
汗だくで起き上がる。カーテンの隙間から朝日が差し込み、ほのかに小鳥のさえずりが聞こえる。
……なんだったんだ、今の夢は。怖すぎる……。
月曜日から最悪だな。
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食欲はないが、なんとかゼリーを流し込み、この春に戻ってきた本社に出社する。
本社で二年、中部支社で三年、開発部門の営業をしてから、本社の開発調査部に異動してきた。今まで経験してきたことを基に、なかなか充実していると思う。
そんな中、親睦会と言う名の飲み会の誘いがあった。
「受付の人たちとの飲み会ですよ、行きましょうよ樫井さん。」
中部支社から同時に異動してきた鈴野がにこにこしている。システム管理部からわざわざ遠征してきて熱心に話している。
「うーん、せっかくの金曜日だからなあ。」
「可愛い人ばっかりですよ、特に二十五階の結城さん。僕、同期なんですけどね……。」
ああー、噂には聞いたことがある。儚げな可愛さなんだけど、気さくでいて独特の雰囲気を持っているという。前に会議で二十五階に行った時には畠中さんだけがいたな。休憩だったのかな。
畠中さんは中部支社に行く前から受付の華だったけれど、久しぶりに顔を合わせたら「よおっ」って感じで相変わらず男前だった。
「ねー、樫井さん来たらきっと皆さん喜びますよ。」
「……?」
「樫井さん、自分のことわかってないですよねー、それとも彼女に気を遣っているとか? ほら、あの……。」
「彼女? そんなんじゃないよ。」
思わず眉を顰めた。せっかくこのところの忙しさで忘れていたのに。
中部支社時代、異動するのが前提だとわかっていて付き合った彼女は将来の確約を欲しがった。そんな彼女に『なにか違う』と思った途端、俺の中がすーっと冷めてしまい、別れを切り出し逃げるように引っ越した。
悪いことをしたな、と思う。
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それから金曜日までの間、毎日同じ夢を見る。