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「結城さんは小説とか読む?」
「えーと、スマホでネット小説はたまに。
ああ、そうですね、ハマるのを見つけると没頭して嫌なこと忘れますね。」
「そうそう、そんな感じ。俺は仕事以外であんまり画面を見たくないから紙の本選ぶけど。」
そう言いながら、SFの本が並んだ文庫本のコーナーへ移動し、背表紙を眺めていく。
「SFかあ。読んでみようかな。」
「えっ、そう?」
「未知のジャンルなので。」
樫井さんが本棚の下の方から一冊取り出し眺めている。私も同じ本を手に取ってみると、裏を見るとおおまかなあらすじが書いてある。
近未来のスパイもの。……うん、普段なら絶対に選ばないな。
*
「樫井さん。」
二人で本を買い、店を出る時に私は思い切って樫井さんに声をかけた。
ずっと、私はどうしたいのか考えていた。進むのか留まるのか。
そして音葉を見ていて、当たって砕けるのもいいんじゃないかと思えてきた。
「あ、あの。久しぶりに食事でもどうです……か……。」
いや、もう恥ずかしい。当たって砕けるって、すごい消耗する。ちらっと見ると樫井さんは驚いたような顔をして口を開いた。
「えっ、作ってくれるの?」
「は? いいえ。」
「……。」
「……。」
二人で同時に笑い出す。
「トマトのおでんじゃなければね。」
「ええー、美味しかったじゃないですか。」
もう二人でいるところを会社の人に見られてもいいや。噂なんか気にしないし。
一緒にいたいから。




