つながり
仕事の帰りに駅の近くの少し大きな本屋さんに行く。
ここはビジネス街にあることもあって資格関連のテキストも多い。
人間観察が好きな私にとって今の仕事に不満はない。けれど畠中さんが言うようにそのうちに異動がある。その時に自分の武器はなんなのか、それとも他になにかあるのか見つけたいと思ったのだ。
IT系が固いか。それともインテリア系とか。本棚をじっと睨んでいると、横から見えくすっと笑う声が聞こえたので、ちらりと視線を向けた。そして二度見した。
「かっ、樫井さん。」
私と同じように本棚に体を向けた樫井さんが、笑いながら私の顔を見下ろしていた。
「十分ぐらい前から横にいたんだけど、全然気づかないし。怖い顔をして本棚を睨んでるし。」
「えっ、恥ずかしいんですけど。」
樫井さんは多分赤くなっているであろう私に優しく目を細めた後、本棚に向き直った。
「なにか資格取るの?」
「いえ、見てただけなんですけど、なにか武器になるものが欲しいなあ、と。」
「ああ、なるほど。今でもパソコン使ってるでしょ。IT関連なら取れるんじゃない。これとかならテキストだけで勉強できるよ。スマホで問題も解けるし。
社内のリスキリングプログラムは?」
「それも見てるんですけどねぇ。内容が偏っているんで。」
「IT系なら鈴野に聞けば……。」
樫井さんが言いかけて口を噤む。気を遣わなくてもいいのになあ。
「……じゃあ、あとはなにか趣味とか好きなものとか?」
「趣味……。」
「好きなのは食べることだっけ?」
また樫井さんがくすくす笑う。
「もうっ。作るのも好きなんですよ。」
「へえ?」
「一人暮らしだとそんなに作らないですけど、友達が来た時とかちゃんと作ります。」
「ふうん……、そっか。」
「樫井さんもなにかテキストを探しているんですか?」
「ん? いや、ふらっと入ったら結城さんが見えたから。俺はあっち。」
指を指した方のコーナーを見る。
「仕事とは全く関係のない本を読もうと思ってね。SF。」
「SF……。面白いですか?」
「うん、違う世界にトリップしたら脳が休まる感じがして。」
「のうがやすまる……。」
樫井さんがぷはっと笑った。




