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「じゃあ俺も黒歴史のついでに。」
柴崎さんが静かに話し始めた。
「俺さ、中二ぐらいから急にモテ始めて告白されるようになって。たぶん坊主頭から髪の毛を伸ばし始めた頃なんだけど。
それで嬉しくて付き合って。でもすぐに『思っていたのと違う』とか言われて振られるの。もっと楽しい人だと思ってたって。
別に俺も好きになって付き合っていたわけじゃないから仕方ないな、と思うんだけど度重なるとメンタルにきてね。
……で、初めて自分から好きになって付き合ったのが蓮花だった。怖かったんだよね。蓮花に『思っていたのと違う』って言われるのが。結局、あんなことになったけど。」
「ふふっ、ほんとそうですね。色々とひどかったみたいですしね。」
柴崎さんは一瞬、目を見開いてから笑った。
「君、いい子だね。」
「そうですか?」
「うん。いい子。」
「自分の想いと相手の想いが釣り合わないってしんどいですよね。」
「そう、うん、そうだね。」
「改めて乾杯しませんか?」
「なにに?」
「話すことができた私たちに。」
「はは、じゃあ乾杯。」
私も本当はまだ全然吹っ切れていない。まだ途中だ。でも絶対に前に進む。そう思いながらカチンとグラスを合わせた。
辛かった恋を過去のものにするには、新しい恋が必要なのだ。
「これからも連絡してもいいですか?」
「もちろん。」
「翔さんって呼んでいいですか?」
「はは、君は面白いね。じゃあおれもこれから音葉ちゃんって呼ぼうか。」
寂しさを抱える私たちは、お互いを補い合うことで救われることもあるだろう。
親友にさえ言えなかった心の内を、この人には話すことができた。
まだまだ始まらない。これから少しずつ……。




