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その次の人気は場を回している篠原さんかな。畠中さんと一緒になってMCみたい。篠原さんは盛り上げ役、畠中さんは統制役。バランスがいい。
そういや畠中さんの浮いた話って聞いたことがないな。美人すぎるのもダメなのかな。
樫井さんは目の前の女子二人とにこやかに話していて、そのほかの人たちもだんだんと緊張が解けてきて和やかな雰囲気になってきている。
そうやって全体を見ていると、目の前に座った人に声をかけられた。
「お酌しましょうか?」
「え、えとあの……はい。」
確か同期の鈴野くん。グラスを傾けると、とぷとぷと赤ワインを注いでくれた。
「入社式で結城さんのこと見ましたよ。覚えています。」
「あー、話すのは初めてですよね。あの、同期なので敬語じゃなくていいですよ?」
そう言うと鈴野くんはぱあっと笑顔になった。子犬系。
「入社式で結城さん、目立ってたんだよ。それが僕は研修が終わってすぐ中部支社に配属になってすごく残念だった。」
中部支社……。樫井さんと一緒だったのか。
「鈴野くんは、営業?」
「いや、システム管理。本当は二年ぐらい本社勤務で、転勤はその後の予定だったらしいんだけど、あっちで人手が足らなくなったとかで。」
ああ、そかそか。ファイルで見た情報を思い出す。
「それは大変だったね。」
「うん、ぶっつけ本番な感じで使いながら慣れたよ。」
「去年、一回システム障害があったじゃない?」
「そうそう、あれねー……。」
鈴野くんと話していると、ふと視線を感じてちらりと入り口の方を見る。ひっ、樫井さんと目が合った! まさかずっとこちらを見ていたのでは?
慄いたのが表情に出たのか、樫井さんの眉間に皺が寄った。
ばっと視線を外し、鈴野くんの話に相槌を打つ。
「二日ぐらい復旧しなかったよね、土日挟んでたけど。」
「その土日もほぼ徹夜だったんだよ。」
「うわあ、大変だったね。」
ちらりと視線を向けると、向こうもグラスに口をつけながらちらりとこちらに視線を向けていた。
いやもう怖い。
目の前にあるお酒や料理の味もだんだんとわからなくなり手に持っていたフォークを皿に置いた。
「結城さんは少食なんだね。」
「は? 蓮花が少食?」
音葉、うるさい。音葉よりは少食でしょうが。
「あー、でも昼もあんまり食べなかったね。」
「そうなんだ? 体調がわるいとか?」
「いや、……食べます。」
あっちを見なければいいんだ。うん、そうだ。その存在を忘れよう。