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「蓮花ってすごいモテたんだよ。普段通りに過ごしてても周りの注目を浴びるような。だから俺は臆病になっていたんだよね。蓮花が離れていくことに。
だから束縛してしまった。そしたら逆に蓮花がどんどん遠くに感じられて寂しくてさ。」
柴崎さんが視線を落としたまま微笑む。
「なんとかもう一度こっちを見ないかとほかの女の子と遊んだりして。あ、でもご飯に行ったり買い物に行ったりしただけ。それでも浮気なんだろうけどね。挙げ句の果てに縋ってもらえるかと別れを切り出した。……バカだろ。」
柴崎さんは両手で包むように持ったグラスを感情のない目で見つめる。
深く深く後悔し、足掻いた末に諦めようと感情を抑え込んでいるのだと感じた。
「恥ずかし、黒歴史。」
「……蓮花、誤解していますよ。」
「ん、まあ仕方ないね。誤解しない方がおかしいし。いいよ、蓮花のそばには頼もしそうな奴がいるみたいだしね。だから誤解したままでいい。この話は内緒ね。」
笑いながらそう言う柴崎さんに、喉がぐっと詰まったようになった。目の周りがじんわりと熱くなり涙が滲みそうになるのを誤魔化すために目を伏せた。
「……私、つい最近失恋したんですよ。うーん、つい最近というか、長い時間をかけて繋がりが細くなって切れたような感じですね。」
飲食店をしている元カレと会社員である自分は時間が合わなかった。仕事帰りに彼の店に行っても、忙しそうな彼と言葉を交わすわけでもなくだんだんと会話は減っていった。たまに休みを合わせても彼は店に関することや友人を優先した。
そんな彼が好きだったはずなのに寂しさが募った。彼にとって自分の存在はなんなのだろうかと。
時々聞いてみると「彼女だよ」と言う。
飲食店は経営が不安定な所もあるし、私は会社を辞めずに支えたいと思っていたが、それにも疲れてしまった。
そして必死に守っていた糸のように細くなった繋がりを私は自分で切った。
別れはあっけなかった。
そんな時に蓮花が襲われ、柴崎翔が現れた。
最初は親友に辛い思いをさせた奴だと警戒していたが、蓮花の家の前で話している柴崎さんを見て、この人は自分と同じではないか、と思ったのだ。
私は自分の心を隠し、柴崎さんは表現する違いはあるけれど、守りたい細い繋がりを自分で断ち切ってしまい悔やむのだ。
そして後悔と寂しさを抱えていても誰にも言えない。
そう思ったらダメだった。知りたい、話がしたいという思いが募り、ここまで来てしまった。
そして、目の前にいて確信する。
この人は私と同類だ。




