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窓の外、道の向こうのビルから柴崎さんが出てきて横断歩道の信号を待っている。時折、同じビルから出てくる人に手を振ったり小さく頭を下げている。
ああ、素敵だな。そして……なぜか寂しいな。
柴崎さんがカフェに入ってきて私に気がついて近づいてくる。
「ごめんね、お待たせしました。」
「いえ、こちらこそ急に押しかけて申し訳ありませんでした。」
立ち上がって頭を下げると柴崎さんがふふっと笑った。
「さすが、所作が綺麗だね。」
「あ、すみません、身に染み付いているもので。」
「うん、今日はプライベートでしょ。楽にしていいよ。で、こんな遠くまでなんでわざわざ?」
「え……、えと。」
もじもじして急に黙り込んだ私を見て彼が声をかけてきた。
「今日、もうこんな時間だけど大丈夫?」
「は、はい。駅前のホテルに予約入れてます。」
「そうなんだ。じゃあご飯でも食べに行こうか。俺、腹が減っちゃって。」
「そうですよね、はい、行きましょう。」
さっき分厚いパンケーキを食べたが大丈夫、まだ入る。
そして私が泊まるホテルの近くの小さなビストロに入った。
「今日は本当に突然すみません。私……。」
縮こまって小さく謝る私に柴崎さんはふっと吹き出すように笑った。
「で、どうしたの? 結城さんのこと?」
「いいえ、私が勝手に来たんです。確かに蓮花のこともですけど、来たのは私自身のためです。」
柴崎さんは「ん?」と首を傾げた。
「あのっ、柴崎さんに一目惚れというか……はい……一目惚れです。」
言葉は尻すぼみに小さくなっていった。その反対に顔がかーっと赤くなったのがわかる。柴崎さんはきょとんとした顔をしてこちらを見ている。
「あの時? そういう感じじゃなかったでしょ。」
「はい……。」
「君……、菊池さんは結城さんから俺のこと聞いてないの?」
「少しだけ。」
「嫌な奴だよ? 俺。」
「今は違うと思います。」
柴崎さんが視線を落とし、少しの沈黙が流れた時、料理が運ばれてきた。
「食べようか。」
「はい。」
「俺さ、蓮花のことをすごい傷つけたから。もし蓮花以外と付き合うなら、それを知らない人と出会いたいって思っていた。恥ずかしいし。」
「……。」
「でも、そうだな。逆に考えれば菊池さんになら隠さなくていいのか。」
私はフォークを置いて柴崎さんの顔を見た。物憂げな表情で肘をつき、柔らかく握った拳に頬を預けている姿もかっこいい。
手、きれい。私、手フェチなんだと自覚した。畠中さんの筋肉フェチがほんの少し理解できた気がする。そういや元カレのコーヒーを出す時の手がきれいだったっけ。いや、今はどうでもいい。
そんなことをぼんやり考えていると柴崎さんが口を開いた。




