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そうこうしているうちに、音葉が有休プラス週末休み明けに出勤してきた。
「どうだった?」
「断られたよ!」
「なんでそんなに晴々とした顔をしてるの?」
「想定内だったから。でも連絡先は交換したし、土日は色々案内してもらって夢みたいだった。」
頬を染めて光りが滲むような笑顔の音葉は本当に幸せそうだ。
「私という存在を認識してもらえただけで今は充分。始まったって感じかな。」
そうかー。始まったのか。音葉と翔が……。なんかもう色々と複雑。
私はどうしたいんだろ。始めたいのかな。
その帰り、音葉がぽつりと言った。
「聞いたよ、柴崎さんが蓮花を傷つけたこと。」
「え。」
音葉がふっと笑う。
「私は蓮花からトラウマって聞いていたけど、詳しいことは聞いてなかったじゃない? 色々とひどいよね、柴崎さん。でもね、自信がなかったんだって。浮気っていうか他の女の子と遊んでいたのも別れを言ったのも、蓮花に焦ってほしかったんだって。」
「えー、でもそれは……。」
「わかんないよねえ、傷つくよねえ。」
音葉は、笑いながら言う。
「でもね、それに申し訳なかったって今言えるのは、清算できたんだなって思う。
柴崎さん、蓮花と再会するまで誰とも付き合わなかったらしいの。で、三年も経って違う関係になったんだって理解したって。
蓮花に会いたくて努力したけど、それは財産として残ったから、蓮花に感謝してると伝えてくれって言ってたよ。」
ものすごく驚いて心が暖かくなって目を伏せた。
「そっか。……音葉、ありがとうね。」
目の周りが熱くなる。翔、あの頃はほんとに好きだったんだよ。だから傷ついたり悩んだり。
お互いもう少し大人だったら違っていたのかもね。
霧が晴れるようにトラウマが綺麗になくなった気がする。
あ、音葉は裏アカのことは知ってるのかな。柴崎くんは私が裏アカ知ってることは知らないから、うん、黙っておこう。




