51 ナイトメア
またあの夢だ。夢の中の私はもがいている。
***
わたくしが正式に聖女として選ばれた時、次期皇帝の絵姿を見ることはなかったが、その経歴や功績は伝えられた。
熱心に伝える講師に対して、わたくしは聖女にあるまじき嘲にも似た笑いを噛み殺し、表情を取り繕って講義を受けた。
曰く、婚姻の儀の時点で二十才となる皇太子は、武芸にも勉学にも秀でており国を治めることになんの心配もないこと。すでに治めている国の直轄地は発展を遂げているらしく、国の未来も明るいものになるだろうということだった。
ああそう。わたくしにはその未来を見ることは許されないけれどね。
帝室を尊敬しろと、帝国のため世界のために殉ずるのがいかに名誉なことかと延々と聞かされても、わたくしの心は冷えていくばかりだ。
けれど、わたくしの中で『彼』の姿が形作られていく。
女性ばかりの聖女としての生活や、年老いた神官や修道女に囲まれた中であっても『恋』に対する憧れがなかったわけではない。たとえ『死』が決定しているとしても『彼』は私の結婚相手なのだ。
体中に形容し難い感情が広がっていく。
わたくしの人生とはなんなのか。世界を守ることに喜びを見出せないわたくしがなぜ聖女に選ばれたのか。
なぜ普通の女性として生きていくことが許されなかったのか……。
***
朝目覚めた時、なぜか私は泣いていた。
夢の中の私の慟哭が頭の中にこびりついている。
ただただ、小さな幸せが欲しいと小さく泣いている。
涙が溢れて止まらなかった。




