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パーフェクト・デイ  作者: ミソラ


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 樫井さんとは、特に相談事もないのになんとか捻り出してメッセージの交換をしている。

 それが思いのほか楽しい。会社では顔を見ても素知らぬふりをするので、だんだんと変な視線を感じたり噂を耳にすることもなくなってきた。


 そうやって日々を過ごしていたある日の朝、ビルの一階のホールで紗里と話をしている樫井さんを見た。

 ほかに入居している企業の人たちが慌ただしく行き交っているホールの観葉植物の陰に二人の姿はあった。樫井さんは向こうを向いていて表情はわからないが、紗里は胸の前で両手を握って俯いている。


 胸の中がきゅうっと掴まれて目の周りが熱くなった。ああ、嫉妬だ。


 これは嫉妬だ。


 私は見なかったふりをしてエレベーターホールへ向かった。満員のエレベーターを一つ見送ってから乗り込むと、後ろから聞いたことのある声がした。

「おはよう、結城さん。」


 心臓がおかしくなったのかと思うほど跳ねて目を上げると樫井さんが立っていた。視線を左右に動かしたが紗里はいない。

 会社で久しぶりに言葉を交わした。前と同じように声をかけてきた樫井さんに緊張する。

 

「……おはようございます。」

「なんか久しぶりだね、二十五階にいく時もあるけど時間がないし。」

「忙しそうですもんね。」

 

 *


「どうしたの、ぐったりして。」

「おはようございます、畠中さん。……なんでもないです。」


 *


 遡ること二週間前、私が退院して初めて出勤した月曜日の夜、樫井さんからメッセージが届いた。

 内容はやはり謝罪の文言と。

『自分のせいで変な噂が立っていて申し訳ありません。しばらくはプライベートも含めて話さない方がいいと思います。』


 なぜかものすごくショックで。すぐに返信してしまった。


『メッセージだったら相談とかしてもいいですか?』

 送信。


 いや待て、消そう。あ、既読ついちゃった。


 既読がついてからなかなか返信が来ない。今からでも取り消そうかと思ったら返信が来た。


『こちらこそ、よろしくお願いします。』


 今日、久しぶりに声を聞いた。ああ、泣きそう。やばい。

 

 あのエレベーターホールで紗里と向かい合っていた樫井さんの後ろ姿を思い出す。なにを話していたんだろう。あの後、普通に声をかけてきてくれたけど。


『しばらくはプライベートも含めて話さない方がいいと思います。』とメッセージのみのやり取りになってから久しぶりの会話をした。

 そういえば、あの時は紗里のことだけを考えていたけど、樫井さんはどういうつもりで声をかけてくれたんだろう。でも……すっごく嬉しかったなあ……。


 ベッドに寝転がり、天井をしばらく見つめてから目を閉じる。意識はすうっと眠りの中に溶けていった。

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