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日曜日の夕方、音葉と買い物をしてマンションに戻ってくると、建物の入り口前に一番会いたくない人がいた。
「翔……。」
「蓮花、おかえり。」
いつもの眩しい笑顔で手を振ってくる。
「今ピンポン押したけど出ないから居留守かと思ったよ。」
やっぱりマンションバレていたと固まる私を、音葉がちらりと心配そうに私を見る。
「あ、君は蓮花の友達? 俺は柴崎翔といいます。よろしく。蓮花のそばにいてくれてたんだね。ありがとう。」
私の保護者みたいな言い方に呆れてしまう。
「いえ、この土日もなんともなかったので怪我はもう大丈夫だと思います。」
音葉もなにを保護者に報告するように言ってるの。
翔は音葉の言葉を聞いてにっこり微笑んだ。
「それはよかった。俺ももう地元に戻るんだけど……。」
翔は言いづらそうに視線をちらりと音葉に向けた。
「……えーと、すみません。私は蓮花のそばを離れるわけには行かないので。」
音葉、いい友達。感動する。
翔は数度まばたきをした後、いつもはなにを考えているのかわからない笑顔をきりっと引き締めてしばらく沈黙して頷いた。
「……三年前別れた時は、俺も精神的に幼くて蓮花に嫌な想いをさせたと思う。この三年、必死に働いて……蓮花の前に堂々と立てるように頑張ってきた。」
……え、急になに?
「こうやってまた会えたのは奇跡だと思う。……もう一度、やり直さないか?」
翔の束縛は激しくて位置情報は何度もチェックされ、一日の行動をしつこく聞かれた。友達と話しているだけでも咎められて息が詰まった。
彼が初めて浮気をしたのは私が距離を取り始めた後。翔から別れを言われたのは、卒業後の就職先が離れることがわかったのと浮気が原因で会話もなくなった後。
別れを口にした時の翔は、一度も私と目を合わさなかった。大学の図書館の横にある木の下で平気そうな顔をして、でも時折眉間に皺を寄せて小さな声で呟くように言っていた。いつも飄々としていた彼が、少し苦しそうな顔をしていた。
……ああ、そうか。私も幼かった。ちゃんと嫌なことは嫌だと言って話し合えばよかった。なにも言わずに離れ、別れを切り出され勝手に傷ついた。
傷ついたのは本当に好きだったから。でも今は……。
「翔、いや、柴崎くん。もう三年前に終わっているんだよ。私はもう柴崎くんとは一緒にいられない。」
「……もう一回やり直そうよ、蓮花。」
「無理だよ。」
「仕事を辞めて一緒に来てほしい。俺、幸せにするよ。」
「しつこい人は引かれますよ……。」
音葉がぽつりと呟いた。私と柴崎くんが音葉を見ると、音葉がはっと顔色を変えた。
「えっ、あっ。心の声が漏れた!」




