40 想い
ドアを閉めて鍵をかけると、樫井さんの足音が遠ざかっていった。
怒涛のように過ぎた三日間。
会社と駅の間にある遊歩道でショートヘアの綺麗な女性に抱きつかれている樫井さん。その女性がなぜか突然私に向かってぶつかってきた。混乱している間に頭を打って気を失っていたが、後で聞いたら馬乗りになって首を絞められたらしい。
私に向かってくる彼女の憎しみに染まった目。そしてその向こうから必死な表情の樫井さん。
あの時感じた私の感情はなんだったのだろう。胸が詰まるような叫びたくなるようなあの感じは。
そして、病院のベッドの上で久しぶりにあの夢を見た。
忘れたと思っていたのに急に現れた翔……。
大きなため息が出る。
なんで今更……。ほんとに意味がわからない。
*
少し掃除をしていたら、音葉からもうすぐ着くとメッセージがあり、玄関チャイムが鳴った。モニターを確認してから解錠する。
もしかして翔が来るんじゃないかと怖くて仕方がない。
「やっほー、色々買ってきたよ。」
「ありがとう、音葉。」
ほっとして音葉を招き入れた。
「どう? 頭が痛いとかない?」
「うん、大丈夫。もう腫れてもないし。月曜日からは仕事に行けるよ。」
「でも念のためにお酒はなしね。」
お昼が割としっかりした和食のお膳だったので、あまりお腹は空いていない。
そういえば樫井さんと二人で食事をするのは二回目だったと思い出し、少し恥ずかしくなった。
「今日、樫井さんが迎えに行ったんでしょ?」
「え、ああ、うん。」
音葉がちらりと私を見た。
「なにか言われた?」
「なにかって? ああ、被害届の事は聞かれたけど。」
音葉は少し考えるようにゆっくりとローストチキンを咀嚼して飲み込んだ。私も同じものを口に入れる。表面にまぶされたスパイスがピリリとして美味しい。
「あの女が蓮花に飛びかかった理由は?
私たち三人いたのに迷いなく蓮花に飛びかかったでしょ。その理由。」
「んー? 一番弱そうだったとか?」
「うわあ、なにげに失礼。私の方が背は小さいのよ?」
「あは、ごめん。みんなか弱い女子よね。」
仕方ないなあと言う顔でため息をつかれる。
「……私の口から言うのもなあ、と思うけど性格上黙っていられないので。」
「うん。」
「あの人、樫井さんの元カノらしいんだけど、樫井さんのことが諦められなかったみたいで追いかけてきたらしいの。」
あー、やっぱり。
「でね、なんで蓮花に飛びかかったかと言うと、一瞬の樫井さんの視線で、樫井さんが蓮花のことを想っているのがバレたから、だって。」
「……え?」




