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役員室の受付、間宮さんが手を挙げる。
「畠中さん、基本的な質問なんですけど。」
「はい、どうぞ。」
「この親睦会って企画したのは畠中さんなんですか? 女子が受付ばっかりなので人脈作りになるのかと……。」
「企画したのは調査開発の篠原よ。」
「畠中さんの同期ですか?」
「ううん、一個上。」
……先輩なのに呼び捨て。
「私も広報の友達とか声をかけようかと思ったんだけど、篠原の希望なのよ。
でもいいじゃない。こちらも利用させてもらいましょ。」
下心が見え見えなんだけど。
でもさぁ、異動していたきたばかりだったら、もしかすると遠距離で彼女いるかもしれないじゃない? 彼女がいるのに知らないところで知らない女の子たちとわいわいするのを知ったら、イヤな気持ちがするかもしれないじゃない?
昼に音葉から聞かれたこともあって、学生時代に付き合っていた彼の顔を思い出し、背中がぞくっとした。
『蓮花はなんで勝手なことばかりするの?』
綺麗で冷たく感情のない表情と声。振り払うように小さく頭を振る。
もし彼とまだ付き合っていて、こうやって親睦会といえど男性たちと飲み会をしていると知ったら……。
……好かれていた。好きだと思っていた。でも彼の『好き』は私とは違うものだった。
「こらぁ、結城。始まる前からなんて暗い顔をしてるの。」
「……してません。」
一人壁際でどよんと暗くなっているとがやがやと男性たちが入ってきた。
「遅くなってすみませーん。」
陽気で響く大きな声の持ち主は篠原さん。
「いえいえ、どうぞ。」
半個室に入ってきた人たちをぼんやり見ていると、最後に入ってきた男性を見て心臓が嫌な音を立てた。
ガタッと音を立てて立ち上がり、みんなの視線を浴びる。そしてまたストンと座り、俯く。
……嘘でしょ。
「ちょっと蓮花、どうしたの? 顔、青いよ。」
「い、いい、いや、なんでもない……。」
あのくせのある焦茶の髪の毛は……、あの目は……。
いやでも。夢の中のあの人は西欧人でこの人は日本人。
引き攣りながらもう一度目を向けると、向こうもわずかに目を見開きこちらを見ている。
なになに? なんなの?
わいわいと席についている間も、その男性は私を見てなにか言おうと口を開き閉じる。私は一番奥の席で、その人は入り口近くの席。話をするには遠いのをいいことに、気づかないふりをして俯いてメニューに目を落とす。
いや、初対面よね? 初めて見るよね? ゴキィッじゃ……。なんでか今度はドキドキしてきた。