39
食事を終え、彼女のマンションまでタクシーで送る。
「一人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ちょうど明日が土曜日なので今夜から音葉が泊まりに来てくれることになっています。」
「そうか……。あの、昨日の男性は?」
「元カレです。」
「元カレ……。」
「三年前に別れて今まで音沙汰なかったのに。うちの家族と連絡を取って……。」
結城さんは眉を顰めて口をつぐんだ。
「顔色悪いよ、ほんとに……。」
「大丈夫です。すみません、ありがとうございました。樫井さんもお仕事頑張ってくださいね。」
結城さんは無理矢理作ったような明るい笑顔でタクシーを降り、受付らしい綺麗なお辞儀をした。
俺は慌てて金を払ってタクシーを降り、きょとんとする彼女に言った。
「その……元カレがいるといけないし、玄関先まで送るよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。このマンションのことは知らないはずなんですけどね……。」
もしかして実家の両親が教えたかもしれない、と結城さん少し不安そうに瞳を揺らした。
二人でマンションのエレベーターに乗ると、二人きりの空間にとてつもない緊張感を感じる。
「か、樫井さん。その、仕事は、お時間大丈夫ですか?」
「あ、うん。少しくらい平気。」
ぎこちない会話をして玄関ドアの前まで行くと、結城さんはまた綺麗なお辞儀をして、小さくお礼を言って中に入っていった。俺は鍵のかかる音を確認してその場を離れた。
*
二日前の事件とその後の処理で会社を抜けることが増え、その間のサブリーダーの仕事は篠原が補填してくれていたが、今朝の会議で俺はサブリーダーから下ろされた。
プロジェクトにこのまま携わることは許されたが、かなり参った。
仕方がない。全ての原因は俺にある。誰にも文句は言えない。これから巻き返すしかない。




