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珠希はまっすぐ結城さんに向かって行った。
「待て……!」
珠希は、あの夢の中の俺のように両腕を伸ばし両手の親指を交差させ、結城さんの首にぶつかるように突進して行った。
その弾みで結城さんは小さな悲鳴を上げて後ろに倒れ、珠希が馬乗りになるように跨っている。
畠中さんともう一人の女性と俺で必死に珠希を結城さんから剥がした。
華奢な珠希からそんな力が出るのかと信じられないほどで、目の前で起こっていることが信じられず指が震えた。
結城さんは気を失ったのかぐったりとしていて、畠中さんが一生懸命声をかけ、もう一人の女性がどこかに電話をしている。
俺が錯乱するように大泣きしている珠希を押さえつけていると救急車とパトカーが来て、大勢の野次馬が集まる中、俺たちは移動した。
珠希と俺は別のパトカーで、畠中さんが俺についてきてくれた。結城さんには同期の子が付き添って救急車で運ばれて行った。
「樫井さん、勘違いしないでくださいね。まったく意味がわからないんです。なにが起こったんですか。私は本当のことが知りたいだけです。」
畠中さんは静かに怒りのこもった声で俺とは反対側の車窓から目を離さず言った。
「でも、樫井さんにも第三者の目撃者の証言があった方がいいでしょう。」
「……ありがとうございます。」
*
俺と畠中さんはそれぞれ事情を聞かれた後、結城さんが運ばれた病院に向かった。
病室には結城さんがベッドに寝かされていて、先ほど付き添って行った菊池音葉さんがベッドサイドの椅子に座っていた。畠中さんが菊池さんの肩に手を置いて静かに声をかけた。
「菊池、結城の様子はどう?」
「……倒れた時に頭を打って脳震盪を起こして。今は眠っています。」
近づくと、後頭部にガーゼが当てられていて頭に白いネットが被せられていた。
「頭の怪我は大したことないそうです。少しかさぶたができるぐらいで。ただ首の跡が引くまで少しかかりそうです。」
首に包帯が巻いてある。
「今日明日は入院して検査を受けて、状態が良ければ明後日には退院できるようです。」
菊池さんは結城さんから目を離さず俺に問いかけてきた。
「樫井さん、どうして蓮花が巻き込まれたんですか? よくわからないですけど完全なとばっちりですよね?」
俺はなにも言えず立ち尽くすしかなかった。




