3
親睦会当日、金曜日ということでそれなりに忙しい午後を過ごした。受付を警備員さんと交代してから総務部に戻り、残務処理をして二十階の更衣室に行く。受付は制服があるが、他の部署はオフィスカジュアルなので着替え場所というよりは荷物置き場となっていて閑散としている。
今夜の親睦会という名の合コンに参加する男性陣は、主にこの春異動してきた人たちで、たぶん私はまだあまり接したことがない。会議などで二十五階に来た時は見たことがあるだろうけど、みなさん用事がない限り受付素通りでカードをピッピッとかざして入っていく。大体は会議室の予約を取った人が受付でキーの受け渡しをするぐらい。
一応、写真付きの社員ファイルを持たされているので名前と顔は一致するように覚えているが、異動してきたばかりの人はまだピンと来ていない。
だから、正直に言うとこの飲み会はありがたくもある。
そして張り切った畠中隊長の号令と共にイタリアン居酒屋の個室へ。
個室といっても十五人ほど入れるテーブル席でそれほど広くない。入り口の漆喰の壁がアーチ状にくり抜かれており、薄くて白いカーテンで遮られる半個室のようなもの。壁にはドライフラワーが飾られ、ワイヤープランツやグリーンネックレスが垂れ下がり、天井からは黒いアイアンの小さめのシャンデリアが下がっていてとてもおしゃれ。
ダウンライトも煌々としているので、明るい。
果たして男子ウケするのだろうか、と思いつつイタリアンだからがっつりも大丈夫なのかなあとぼんやり考える。
しかし日本酒を手酌しようと思っていたのにイタリアン……。ワインのフルボトルでやってもいいのか悩むところだな。
音葉は「昼もパスタだったのになあ。」と言いながらウキウキしている。
「まだ誰も来ていないわね。
えーと、今日は営業さんとかもいるから遅くなる人もいるかも。でも六月から始まる新規プロジェクトの前で、今は比較的時間に余裕があるみたいなのね。」
「早く着いてがっついてる感出ませんか。」
「待たせるよりはいいでしょ。」
そこで畠中隊長の目がきらりと光る。
隊長作戦を練り始める前に言わねば。
「あのう。」
「なあに? 結城。」
「私の席はいつも通りでお願いします。」
私の定位置は一番奥の角。壁で囲まれた角っこでみんなを観察しながら手酌でまったり飲むのが好きなのだ。
「いいわよ、どうせ結城は飲み始めると喋らないから。」
よっし。