21 挿話 ナイトメア *良平*
私は皇太子。
この婚礼式の後、世界を救う。
壮麗な神殿の向こうには、昼なお暗い森と黒く底の見えない淵。
この婚礼式は儀式で茶番。
世界に冠たるこの帝国の、次期皇帝の伴侶が生贄となることで世界は安寧に保たれる。国民はそれを疑うことなく信じており、皇宮の窓から見える高揚した民たちの歓声に心が塞ぐ。
その中を聖女を乗せた白い豪奢な馬車がゆっくりとこちらへと向かってくる。
この儀式のことを知ったのは五歳のこと。聖女を伴侶に得て世界を救うのだと聞いた時は、よくわからないまでも世界を救う英雄になれるのだと喜んだのを覚えている。
そして十四才の時に儀式の本来の意味を知る。
感じたのは絶望だった。
なぜ自分は皇太子なのか。なぜそんなことが許されるのか。
この世界の安寧は聖女の犠牲の上に成り立っている。聖女候補は私が立太子した後に国中の釣り合う年齢から選ばれる。
その中から美貌や清らかさや聡明さなど、全てを兼ね備えた女性が身分に関係なく正式な聖女として選ばれる。
聖女が正式に決まったのは私が十八の時。神殿から聖女の絵姿が送られてきた。私はその上に被せられた白い布を取ることはできなかった。
「ご覧にならないのですか?」
「生きている者の遺影をか? 悪趣味極まりないな。」
私が蔑むように笑うと、絵姿を持ってきた神官は頭を下げながら部屋を出て行った。
*
二年後。
聖女は死にゆく身のため、次期皇帝である私とは会話をすることも許されない。顔を合わせるのは情がわかないように婚礼式の三日前に一度きり。
*
聖女ルイード。
さらりとした黒い髪に目を伏せていてもわかる大きな瞳。
一目で恋に堕ちた。
何度絶望すればいいのか。
……すまない世界。恨むぞ世界。
これまで幾人もの少女が犠牲になってきたことが、目の前の彼女を見たことで一気に現実感を伴って心を潰しにかかってくる。
そう、この呪いは帝室へのもの。負うべきは帝室の人間であるべきだ。
私は茶番を終わらせる。
儀式当日は聖女の十六歳の誕生日。聖女の誕生日の日は力が強まるとかなんとか。
私は結婚式に似つかわしくない黒い正装を身に纏う。その意味は喪服。
父も祖父も先祖もこの茶番を繰り返してきたのかと思うと吐き気がする。そして国民よ。人の犠牲の上に立つ平和はそれほどいいものか。
誰にもなにも告げず、一人静かに決意をして部屋を出る。




